楽天ad4U

楽天ad4Uとは

楽天ad4U（らくてんアドフォーユー）は、楽天とドリコムが共同で開発した行動ターゲティング広告システムです。2008年6月にサービスを開始し、ユーザーのウェブサイト閲覧履歴や検索語句を基に、興味関心に合わせた広告を自動的に配信することを目的としていました。特徴的だったのは、従来のHTTP cookieやアドネットワークに依存せず、世界中のウェブサイトの閲覧履歴を参照できると謳っていた点です。しかし、この仕組みは後に大きな問題を引き起こすことになります。

サービスの仕組みと疑問

サービス開始当初、世界中のウェブサイトの閲覧履歴をどのように参照しているのかについて、多くの疑問が投げかけられました。従来の行動ターゲティング広告は、アドネットワークを通じて第三者cookieを利用するのが一般的でしたが、楽天ad4Uはcookieを使用せず、独自の方法で閲覧履歴を参照すると説明していました。楽天とドリコムは特許出願中であるとして、具体的な仕組みについては詳細を明かしませんでした。

実現手法の解明

2008年10月、その仕組みが明らかになりました。楽天ad4Uは、Adobe Flashオブジェクト内に数千のURLへのリンクを埋め込み、ブラウザが訪問済みURLと未訪問URLを異なる色で表示する仕様を利用して、ユーザーのアクセス動向を判別していました。具体的には、CSSをJavaScriptで参照することで、リンク先の訪問状況を把握していたのです。この手法は、ブラウザの脆弱性を突いたものであり、ユーザーのプライバシーを侵害する可能性がありました。

問題点

この手法は、表面上は個人情報を収集していないものの、ユーザーのプライバシーに関わる情報を取得しているため、倫理的に大きな問題があると指摘されました。特に、このような手法が広く普及すると、ブラウザの脆弱性が修正されにくくなり、ユーザーのプライバシーリスクが長期間にわたって残る可能性がありました。また、ブラウザの脆弱性を悪用するという点で、マルウェアと類似しているという批判もありました。

反動と批判

楽天ad4Uの手法が明らかになると、業界関係者からも非難の声が上がりました。広告関係者は、このような手法が消費者の広告に対する嫌悪感を増幅させると懸念し、楽天ad4Uを「行動スキミング広告」と批判しました。また、ドリコムの元社員を名乗る人物が、批判を意に介さないような発言をしたことも、さらに批判を呼ぶことになりました。

さらに、楽天ad4Uのオプトアウト方式にも問題がありました。オプトアウト用のcookieに有効期限が設定されていたため、定期的にオプトアウトを再設定する必要がありました。livedoor版のad4Uでは、オプトアウトcookieの有効期限がさらに短く設定されていたため、事実上オプトアウトが機能していませんでした。

ブラウザベンダーによる対策

ブラウザベンダーもこの問題に積極的に取り組みました。特にFirefoxの開発コミュニティは、長年この脆弱性の解決策を検討しており、2010年3月に具体的な対策を決定しました。その対策は、(1)訪問済みリンクを判別するのに使用できるスタイルを制限する、(2)表示時間の差を最小限にする、(3)JavaScriptによるスタイルの取得を制限するというものでした。また、WebKitでも同様の対策が導入され、SafariとGoogle Chromeで楽天ad4Uが動作しなくなると予想されました。

サービス終了

楽天ad4Uは、ブラウザ側の対策が進むにつれて、そのサービスを継続することが困難になりました。2009年4月にはFirefoxを対象ブラウザから除外し、2011年2月には正式にサービスを終了しました。この出来事は、プライバシー保護の重要性を改めて認識させられる事例となりました。

まとめ

楽天ad4Uは、行動ターゲティング広告の新たな可能性を模索した一方で、ユーザーのプライバシーを侵害するリスクを露呈させたサービスでした。その手法は、ブラウザベンダーによって封じ込まれ、最終的にサービス終了に至りましたが、この事件は、技術革新とプライバシー保護の両立の難しさを私たちに問いかけるものでした。

この事件は、広告業界だけでなく、インターネットユーザー全体にとって、プライバシー保護に関する意識を高める重要なきっかけとなりました。

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