楽市・楽座

戦国時代の経済政策：楽市楽座の全貌

安土桃山時代の戦国時代後期、織田信長を始めとする各地の戦国大名は、領国内の市場において画期的な経済政策「楽市楽座」を実施しました。これは、市場における規制を緩和し、自由な商売を認めることで経済を活性化しようとした政策です。

楽市楽座は、単に市場を自由に開放しただけでなく、多角的な経済政策でした。「楽市」は、諸税や特権を保障することで自由な商売を認める市場振興政策です。「楽座」は、それまで商売を独占していた「座」の権限を否定し、競争を促進することで、楽市の効果をさらに高める政策でした。

信長による楽市楽座が有名ですが、六角氏、今川氏、後北条氏なども同様の政策を実施していました。これらの政策は、時代や地域によって内容に違いがありましたが、いずれも市場の活性化、経済発展、そして領国支配の安定化を目指したものでした。

各勢力による楽市楽座の実施

1. 六角氏

天文18年(1549年)、六角定頼は近江国観音寺城の城下町石寺に楽市令を発布しました。これは、紙の専売権を持っていた商人と、他の商人との争いを裁定したもので、石寺の新市が楽市として既に認められていたことを示しています。ただし、この文書が六角氏による楽市設定を直接的に示すものではない点は注意が必要です。

2. 今川氏

今川氏真による富士大宮楽市も早期に実施された楽市として知られています。永禄9年(1566年)に発布されたこの楽市令は、今川氏の領国支配が動揺していた時期に、市場の治安悪化に対処するために実施されました。諸役の停止も、在地領主による独自の課税の混乱を解消するための措置でした。

3. 徳川家康

徳川家康は、遠江国榛原郡小山（現在の静岡県榛原郡吉田町）に楽市令を発布しました。永禄13年(1570年)のこの楽市令は、武田氏との抗争の最前線にあった小山新市の経済的基盤を強化する目的で、諸役免除や「公方人」による押買の禁止などが定められました。「楽市」という文言を付与することで、他の市との差別化も図りました。

4. 後北条氏

後北条氏は、武蔵国荏原郡世田谷新宿、相模国中郡荻野新宿、武蔵国新座郡白子新宿の3ヶ所に楽市令を発布しました。世田谷新宿では諸役免除が認められましたが、荻野新宿や白子新宿では、諸役免除は必ずしも「楽市」と結びついていなかったことが分かります。世田谷の楽市は近世に衰退しましたが、現在もボロ市としてその名残を残しています。

5. 織田信長

織田信長は、美濃国加納、近江国安土、近江国金森などに楽市楽座令を発布しました。永禄10年(1567年)の加納宛の制札では、交通の自由や種々の特権が認められ、戦後の復興も意図されていました。翌年には「楽市楽座」の文言を用いた制札が出され、市場の発展が企図されました。安土楽市令では、商人の宿泊の強制や近江国内の馬売買の一元化などの経済振興策に加え、諸役免除や住民保護策も多く含まれていました。本能寺の変後も、織田信雄や羽柴秀次によってその政策は維持・発展されました。

「楽座」の意味

「楽座」は、従来の座による商売の独占を否定するだけでなく、座商人への負担である座役銭の免除を意味していたとされています。柴田勝家による文書では、「楽座」は座役銭の納入免除を意味すると解釈できます。これは、座の解体ではなく、座商人への負担軽減策であったと言えるでしょう。

楽市楽座の意義と影響

楽市楽座は、戦国時代の経済政策として、市場の活性化、経済の発展に大きく貢献しました。諸役免除や自由な商売の許可は、商人たちの活動を促進し、経済的な繁栄をもたらしました。また、市場の治安維持や住民保護の施策も含まれており、社会全体の安定にも寄与したと考えられます。ただし、楽市楽座の効果やその後の展開は、地域や時代、実施した大名によって異なっていました。

楽市楽座は、戦国時代の経済史における重要な政策であり、その歴史的背景や影響を理解することは、近世経済社会の成立過程を理解する上で重要です。様々な文献や史料を総合的に検討することで、より深い理解が得られるでしょう。

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