榎本櫻湖

榎本 櫻湖

榎本 櫻湖（えのもと さくらこ）は、日本の現代詩壇において独自の存在感を示した詩人です。1987年4月28日に生を受け、惜しまれつつも2024年1月に36歳で世を去りました。ローマ字で自身の名前を表記する際には、特に「c」を用いた「Enomoto Saclaco」の綴りを好んで使用していました。

詩作活動と並行して、個人出版レーベル「archaeopteryx（アーケオプテリクス）」を主宰するなど、多様な形で文学活動を展開しました。

生涯と活動

榎本櫻湖氏は東京都中野区で誕生し、その後、東京都小平市の花小金井、そして埼玉県狭山市へと生活の場を移しました。これらの経験が、彼女の詩的な感性や作品世界に何らかの影響を与えた可能性も考えられます。

詩人としてのキャリアを本格的にスタートさせたのは、2011年のことです。この年、彼女は第49回現代詩手帖賞を受賞し、一躍詩壇の注目を集めました。この受賞は、その後の詩人としての活動の大きな足がかりとなりました。

榎本氏は自身がトランスジェンダーであることを公表しており、そのアイデンティティや経験が、作品のテーマや表現に深く関わっていることが指摘されています。また、公の場での発言などを通じて、トランスジェンダーに関する社会的な課題にも向き合いました。

詩作のみならず、同人活動にも熱心に取り組みました。「サクラコいずビューティフルと愉快な仲間たち」「おもちゃ箱の午後」「漆あるいは金属アレルギー」といったユニークな名称の詩誌や同人誌をいくつも主宰し、自身の作品発表の場とするだけでなく、他の詩人たちとの交流や、新たな詩の可能性を探求する場を創造しました。

また、『現代詩手帖』においては、2014年度の詩誌月評を担当し、同時代の詩の潮流や個々の詩誌について、批評的な視点から論じました。

2024年1月に死去。突然の訃報は詩壇に大きな衝撃を与えました。享年36。彼女の死は、『現代詩手帖』同年5月号に掲載された訃報によって広く伝えられました。

作品

榎本櫻湖氏は、その短い生涯の中で複数の詩集を発表し、強い個性と深遠な詩世界を読者に届けました。主要な詩集は以下の通りです。

『増殖する眼球にまたがって』（思潮社、2012年6月刊）ISBN 978-4-7837-3301-0
『空腹時にアスピリンを飲んではいけない』（七月堂、2014年9月刊）ISBN 978-4-87944-228-4
『Rontgen、それは沈める植木鉢』（思潮社、2017年8月刊）ISBN 978-4-7837-3576-2
『Lontano』（七月堂、2018年11月刊）ISBN 978-4-87944-339-7
* 『Hanakoganei Counterpoint』（七月堂、2024年9月刊行予定）ISBN 978-4-87944-581-0

これらの詩集は、彼女の詩的探求の軌跡を示す貴重な著作群です。特に、没後に刊行が予定されている『Hanakoganei Counterpoint』は、最後の言葉に触れる機会を提供するものとして注目されます。

詩集以外にも、反トランス差別をテーマにしたブックレットに寄稿するなど、社会的なメッセージを持つ文章も発表しました。2023年8月刊行の反トランス差別ブックレット編集部編著『われらはすでに共にある：反トランス差別ブックレット』（現代書館）には、「声について」と題する一文を寄せています。

榎本櫻湖氏の文学活動や思想については、自身のnoteなどのオンライン上の情報源からも窺い知ることができます。

詩人として、また一人の人間として、真摯に言葉と向き合った彼女の作品は、今後も多くの人々に読み継がれ、その功績は記憶されることでしょう。

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