榑木

榑木（くれき）とは

榑木とは、平安時代から江戸時代後期にかけて取引された、一定の規格を持つ木材のことです。主に建築資材として用いられ、柱、壁、屋根材などに使われました。また、桶の材料としても利用されました。山間部では、年貢米の代わりとして幕府や藩に納められることもありました。

起源

榑木の起源は古く、「延喜式」に定められた椙榑木（まさくれき）が最古とされています。これは、椹（さわら）、桧、クロベなどを原材料とし、柱、壁、屋根板などに使われました。平安時代や鎌倉時代にも建築材として使用されていましたが、室町時代、江戸時代と時代を経るにつれて、より短く、小型化されていきました。

規格

平安時代

平安時代には、「延喜式」に定められた椙榑木（まさくれき）は、長さ十二尺（約3.6m）、幅六寸（約18cm）、厚さ四寸（約12cm）でした。

室町時代

室町時代には、長さが六尺（約1.8m）と短くなりました。

江戸時代

江戸時代に入ると、さらに短小化が進みました。慶安2年（1649年）の規定では、長さ三尺六寸（約1.1m）、三方四寸五分（約13.6cm）、腹三寸（約9cm）と定められました。その後、延宝6年（1678年）には、これを長榑木とし、別に長さ二尺六寸（約79cm）、三方四寸五分、腹三寸の短榑木が定められました。元禄12年（1699年）には、榑木の規格を記した高札が立てられ、実物見本木が生産村に渡されました。享保3年から4年（1718年～1719年）の改定では、長榑木の長さが三尺三寸（約1m）、短榑木の長さが二尺三寸（約70cm）となり、長短榑木とも三方三寸（約9cm）、腹一寸五分（約4.5cm）に短縮されました。その後、腹の寸法だけが長短榑木とも二寸（約6cm）に改められ、この規格で固定されました。規格が短小化したのは、原木の減少が原因です。また、二つ割や四つ割の若木、しらた、節木は厳禁されました。

割り方

榑木を割り立てるために山に入る期間は、雪のない春先から秋まででした。本来は、自分が納める分の榑木を自分で割り立てるものでしたが、後期には杣（木師）が請け負って、自村や他村の分の伐木、造材を行うようになりました。それを運搬する人は日用（ひよう）と呼ばれ、杣と日用にはそれぞれ頭がいて、杣組、日用組を組織しました。
伐採した原木は、所定の長さに輪切りされ、皮と芯を取り除き、形を整えられます。規格は前述のとおりですが、原木の質によって、上、中、下、下々、刎木（はねき）などに分けられました。

種類

榑木は、その経済的な用途によって、以下の種類に分類できます。

年貢榑木：年貢米の代納として納める榑木
御役榑木：年貢とは別に納める榑木
御用榑木：幕府が買い上げる榑木
助成榑木：塩買木などの下げ渡し木
小作榑木：小作料の代納として納める榑木

年貢榑木

年貢榑木は、年貢米の代納として榑木を納めさせるものです。米納年貢高は、榑木に換算して納められました。長榑木の場合、上榑木は一挺につき米八合一勺、中は六合一勺、下は五合一勺、下々は三合六勺、刎木は一合一勺で換算されました。

御役榑木

御役榑木は、年貢榑木とは別に納めさせるものです。江戸時代中期には、榑木需要の減少と尽き山により、年貢榑木は廃止されました。尽き山状況での御役榑木の割立ては困難であり、後には金納となりました。

御用榑木

御用榑木は、幕府が諸城の造営などの必要に応じて注文し、代米・代金を支給して買い上げるものです。幕府が売却して収入とすることもありました。寸法や規格は年貢榑木と同じです。御用榑木は、諸城や城下町の建設が盛んな時代には需要が多かったですが、その後も年貢榑木を上回る量になることもありました。また、年貢榑木が代金納になると、榑木の需要は御用榑木によって満たされるようになりました。

助成榑木

助成榑木は、塩を買うという名目で支給された、一種の救済制度として扱われた榑木です。

間知（検知）と川狩り

幕府と尾張藩に両属した千村平右衛門家は、信濃伊那郡の幕府領であった、上伊那の榑木買納め5ヶ村と、下伊那の榑木割納め6ヶ村の合計6,197石を預地として支配を委任され、幕府から手数料を受け取りました。

谷で割り立てられた榑木は、谷川の所定の帳場に運ばれました。帳場では、割り立て人別に木口が見えるように100挺（これを一垪という）ずつ縦横に積まれました。四垪で一棚となります。これを役人が村役人の立会のもとで間知（検知）し、長榑木、短榑木別に上、中、下、下々、刎木の等級をつけ、極印を押しました。これにより、村から役人に榑木が渡されました。帳場改が終わった榑木は、村役人の責任で管理されました。

川下げは、通常、3年分をまとめて渇水期の冬に行われました。帳場からは、天竜川支流を川下げして、河口の渡場（どば）に集積し、指示された時に天竜川に流して川下げをしました。千村平右衛門家は、天竜川下流の遠江舟明山（浜松市天竜区）の陣屋で、榑木改役の業務も務めました。

榑木は川の途中に滞留しやすいため、これを狩り立てて流す必要がありました。これを川狩りと呼びました。支流の川下げは小谷狩りと呼ばれ、川をせき止めた堰をいくつも作り、水の流れで順次下すため、多くの人手と労力がかかりました。川を下した榑木は、幕府代官所役人の責任となるため、沿岸の幕府領や私領を問わず、村に川狩りを命じました。榑木を盗み取る者は死刑に処され、厳しく取り締まられました。

参考文献

天龍村史編纂委員会『天龍村史』監修 後藤総一郎
天竜市史 上巻 第三章 天竜川の開発と農林業の発展 第一節 天竜川の榑木輸送 p447～p466 天竜市 1981年

関連リンク

川村誠「上伊那地方における林野利用の史的研究 : その3 伊那地方の榑木生産と手良郷」『京都大学農学部演習林報告』第49巻、京都大学農学部附属演習林、1977年10月、81-92頁
* 浜松市史 第五章 交通・産業経済の発展と町や村の生活 第二節 交通の発達 掛塚湊 掛塚湊と榑木 p214

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