杣

杣（そま）とは

杣とは、古代から中世にかけて、律令国家や貴族、寺社などの権門勢家が、都の造営や寺院の建立など大規模な建設事業に必要な木材を確保するために設けた山林のことです。当初は単なる木材の伐採地でしたが、後に一種の荘園として扱われるようになりました。

杣の成立

7世紀後期以降、都の造営や寺院の建立が盛んになり、大量の木材が必要となりました。当時の交通事情では、都の周辺地域から木材を調達する必要があり、特定の山林が杣として設定されました。寺社の場合は、国家や信者からの寄進や購入によって確保された山林に杣が設けられました。

代表的な杣としては、藤原京造営のために近江国栗太郡に置かれた田上杣、東大寺造営のために孝謙天皇が伊賀国名張郡に寄進した板蝿杣、平安京造営のために丹波国桑田郡に置かれた山国杣などが知られています。

杣の運営

杣には山作所や作所と呼ばれる出先機関が置かれ、杣司などの担当者が杣工、筏師、木守などを率いて、伐採から製材、輸送までを行いました。杣は山中の森林であるため、明確な境界線が定められておらず、伐採する木を求めて周辺へと広がっていく傾向がありました。

杣司以下の食料は、本来は杣を保有する国家や権門が支給するものでしたが、支給が困難になったり、山林の減少や気象条件の問題で伐採作業が行えなくなったりすると、杣工たちは伐採地の跡や山中の谷間、山林周辺の荒地に焼畑や耕作を行うようになりました。ただし、伊賀国の玉滝杣のように、寄進された杣に元々付近の耕地が付属していた場合もあります。

杣の荘園化

杣は山林であったため、境界が不明確な場合も多く、杣工は自らの杣を守るために、杣の境界を侵したとみなされた他者から道具を没収する慣習がありました。杣の所有者であった権門の中には、杣工の生活に関わる耕地も杣の一部とみなし、杣とその周辺を荘園として認めさせようとする動きが10世紀後期以降活発化しました。

その結果、12世紀には、修理職の諸司領となった山国杣（山国荘）など、多くの杣が荘園化されることになりました。山林を主体とした荘園であったため、年貢としては材木や林産加工品が期待されました。また、余剰の木材や林産加工品は都市で販売され、木材の伐採や搬出には多くの人手が必要であったため、領主側の容認のもと、杣工を中心とする荘民の組織編成が進み、惣村などの住民自治の母体となる場合もありました。

まとめ

杣は、古代から中世にかけて、大規模な建設事業を支えるために重要な役割を果たした山林でした。単なる木材の供給地としてだけでなく、荘園化を通じて地域社会の形成にも影響を与えたことがわかります。

参考文献
黒田日出男「杣1」（『国史大辞典 8』吉川弘文館、1987年）
仲村研「杣」（『日本史大事典 4』平凡社、1993年）
川島茂裕「杣」（『平安時代史事典』角川書店、1994年）

関連項目
杣山 (琉球王国)

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