樋 (土木)

樋（ひ / とい）について

樋とは、河川や湖沼の水を放出・流下させるために設けられる水門や管を指します。特に地表に溝を掘ることができず、水流を直接運び込むことができなくなった場合に、この樋が活用されます。樋の設計と使用は、長い歴史を有し、特に日本の水利活動において重要な役割を果たしてきました。

樋の語源と用字

樋という漢字の「ひ」という読み方は、日本独自の国訓によるもので、本来の意味は「木の名」とされています。この字は、中国では現代でもほとんど使われることがない漢字です。日本での樋の使用は古くから始まりましたが、その本格的な利用は中世に入ってからとされています。

歴史的背景

樋が本格的に導入されたのは、山麓や扇状地の開発が進む中世からです。この時期に、日本では中身をくり抜いた木の幹を樋として使用する技術が発展しました。また、松や栂、檜などの耐久性のある木材を用いて木樋（もくひ）が製作されたり、底抜けの羽釜を土や漆喰で固めて作った土樋（どひ）、瓦樋（かわらひ）が使用されました。江戸時代になると、木樋だけでなく、石で作った石樋（いしひ）や竹で作った竹樋（ちくひ）も登場しました。樋は、自然の水流では供給できない地域への水の導入にとって欠かせない存在です。

樋の種類

樋にはいくつかの種類があります。以下は代表的なものです：

• - 圦樋（いりひ）：河川から水を引くために堤防に築かれる樋。
• - 伏樋（ふせひ）：湖や池から水を引くために、地中に伏せられて設置される樋。
• - 尺八樋（しゃくはちひ）：湖沼や池から引水するため、堤の内部の傾斜に沿って設置される樋。
• - 打樋（うちひ）：降水によって満水になった池の水を溢れさせるための樋。
• - 埋樋（うめひ）：土中に設置された水門や管。
• - 懸樋（かけひ）：川や谷を渡るために架けられた樋で、水道橋の一種です。

水利の流派

江戸時代には、樋の設置方法に関して関東流や紀州流などの複数の流派が存在しました。樋は水害や河川の流路変更、さらには湖沼の縮小などのトラブルを避けるために、正確に設置されることが求められました。そのため、樋の設置技術と知識の習得が重要とされ、多くの関心を集めました。

たくさんの書物に見る樋

樋について詳しく述べられた書物もいくつか存在します。大畑才蔵の『地方の聞書』や佐藤信淵の『隄防溝洫志』、谷本教の『県令須知』など、樋に関する知見が記されています。

参考文献 - さらなる学びのために

• - 喜多村俊夫「樋」『日本史大事典 5』（平凡社 1993年）
• - 貝塚和実「樋」『日本歴史大事典 3』（小学館 2001年）

樋は日本の水管理の歴史において重要な役割を果たし、今日でもその重要性は変わりません。水の利用と管理について学ぶ上で、樋の存在は欠かせない要素と言えるでしょう。

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