権助芝居

権助芝居（ごんすけしばい）

古典落語の演目の一つで、別題として『一分茶番』（いちぶちゃばん）、『素人茶番』（しろうとちゃばん）、『素人芝居』（しろうとしばい）、そして劇中劇の題名から取られた『鎌倉山』（かまくらやま）などがあります。

この演目の本来の題名は『一分茶番』あるいは『一分芝居』とされていました。しかし、落語が演じられる時代が江戸から明治以降へと移り変わるにつれて、サゲ（落ち）で言及される金額の貨幣単位が、かつての「一分」から「銭」や「円」へと変わることが一般的になりました。これに伴い、現代では作中の登場人物である「権助」の名前を冠した『権助芝居』という題名で演じられることが多くなっています。

あらすじ

物語は、江戸（または明治以降の東京）の中橋辺りにある大家さんの邸宅で始まります。大家さんの誕生日を盛大に祝うため、店子（たなこ）たちが集まって、お祝いの余興として素人芝居を催すことになりました。演目には、古い歌舞伎の演目である『有職鎌倉山』が選ばれ、それぞれの店子が役柄を分担して稽古に励みます。

しかし、いざ本番が間近に迫ったところで、「非人の権平」という重要な役を演じることになっていた小間物屋が、急な用事が入って出演できなくなってしまいます。代役を探さなければと慌てる中、店子の一人である吉兵衛さんが良いアイデアを思いつきました。それは、普段は邸宅で飯炊きをしている、少し鈍いところのある田舎者の権助に代役を頼むことです。

吉兵衛さんは権助を呼び出し、芝居の代役を務めてくれれば一分（時代によっては五十銭や五円）の報酬を出すと持ちかけます。権助は芝居のことなど何も知りませんが、お金がもらえると聞いて二つ返事で引き受けます。役どころは、物語の後半で捕まってしまう泥棒の役だということを聞かされますが、詳しい説明もなく、ぶっつけ本番で舞台に上げられることになります。

いよいよ大家さんの前で素人芝居が始まります。他の店子たちは一生懸命に演じますが、権助は当然ながら芝居の段取りもセリフも全く覚えていません。舞台の上でうろうろしたり、見当違いなことを言ったりと、初めから権助は様々な騒動を巻き起こします。観客は、その権助の頓珍漢な様子にクスクス笑いをこらえきれません。

芝居は進み、『鎌倉山』の見せ場の一つである、悪事を働いた権平が役人に捕らえられ、縄で縛り上げられる場面がやってきました。これはあくまで芝居上の演出であり、役人役の店子は権助に縄をかけるそぶりをするだけで、実際にきつく縛っているわけではありません。ところが、この場面で観客席から「ざまあみろ、権平が縛られた！」といった野次や掛け声が飛びます。

権助は、これが芝居の中での出来事ではなく、本当に自分が悪者として捕まって縛られたのだと勘違いしてしまいます。観客の言葉を真に受けた権助は、「おらは縛られてなんかいない！」と大声で叫び、体に巻かれた縄をするりと解いてしまうのです。さらに、何を思ったか舞台上で踊り出す始末。

これには役人役を演じていた店子も流石に我慢ができませんでした。芝居を台無しにされた怒りから、役人役は権助に飛びかかり、今度こそ本当に縄で権助をがんじがらめに縛り上げてしまいます。痛い目に遭いながらも、役人役の店子はそのまま芝居を続けようとします。「さあ、白状しろ！誰に頼まれて盗みを働いたのだ！」と、縄をさらにきつく締め上げながら権助に迫ります。

苦しさに耐えきれなくなった権助は、涙目で叫びます。

「へい……吉兵衛さんに、一分（いちぶ）で頼まれました……！」

本来の劇中劇の筋とは全く異なる、代役を引き受けた経緯と報酬の金額を言ってしまい、観客は大爆笑に包まれる、という落ちで噺は結ばれます。

この噺は、素人ならではの芝居の拙さや、権助の純粋さとそれが引き起こす滑稽な騒動を通じて、庶民の日常や人間味あふれる様子を描いており、多くの噺家によって演じられています。

もう一度検索