権現岳

権現岳（ごんげんだけ）

「権現岳（ごんげんだけ）」は、日本国内の各地に同じ名称を持つ山が存在する興味深い例です。この山名の由来は、日本の古来の信仰形態と深く結びついています。

名称の由来：権現信仰

「権現」という言葉は、日本の伝統的な神仏習合思想の一つである「本地垂迹（ほんじすいじゃく）」説に由来します。この思想では、インドに起源を持つ仏や菩薩が「本地仏」であり、日本の神々はその本地仏が人々を救うために仮の姿、すなわち「権現」として現れたものであると考えられました。

山岳信仰が盛んになるにつれて、山は神仏が宿る神聖な場所と見なされるようになります。そして、特定の山やその山中に祀られた神が、特定の仏の権現であると解釈されるようになりました。例えば、熊野権現は阿弥陀如来の、白山権現は十一面観音の権現であるとされました。

「権現岳」という山名は、このような権現信仰に基づき、その山中に権現が祀られていること、あるいはその山自体が権現の宿る場所と見なされたことに由来する場合がほとんどです。例えば、新潟県糸魚川市にある権現岳には、古くから白山権現が祀られていたと伝えられています。

各地の権現岳

日本各地には、いくつかの著名な権現岳が存在します。それぞれ異なる地域にあり、標高や地形も様々ですが、その名前に共通の信仰的背景を持っている点が特徴です。

八ヶ岳の権現岳

最もよく知られている権現岳の一つに、長野県諏訪郡富士見町と山梨県北杜市にまたがる八ヶ岳連峰の一峰である権現岳があります。標高は2,715メートルで、南八ヶ岳の主要な山の一つとして、多くの登山者に親しまれています。

新潟県の権現岳

新潟県糸魚川市にも権現岳という名の山があります。こちらの標高は1,104メートルです。前述の通り、この山は白山権現が祀られていたことからその名がついたとされています。

長崎県の権現岳

長崎県五島市、五島列島の主要な島である福江島にも権現岳が存在します。標高は360メートルと比較的小ぶりな山ですが、島における信仰の対象であった可能性があります。

御前岳の別名

さらに、福岡県八女市と大分県日田市の県境にある標高1,209メートルの御前岳（おまえだけ）も、権現岳という別名を持っています。これもまた、山が持つ神聖性や信仰との関連を示唆するものです。

名称の重複と関連山名

このように各地に「権現岳」という同名の山が存在するのは、権現信仰が日本中で広く受け入れられ、様々な山岳信仰と結びついた結果と考えられます。また、「権現岳」と似た名称を持つ山に「権現山（ごんげんやま）」があり、こちらも日本各地に多数点在しています。これらの山名もまた、多くの場合、山中に権現が祀られていることに由来しており、「権現岳」と「権現山」は名称の成り立ちにおいて共通の背景を持つと言えます。

「権現岳」という山名は、単なる地名ではなく、日本の歴史、特に神仏習合という独自の信仰形態が山岳信仰と結びついて形作られた文化的な痕跡であると言えるでしょう。各地の権現岳を訪れることは、その土地固有の信仰や歴史に触れる機会でもあります。

もう一度検索