横歩取り4五角

将棋戦法：横歩取り4五角の深層

横歩取り4五角は、後手番が用いる、将棋の横歩取り戦法の一種です。相横歩取りの一部の変化と同様に、序盤から激しい攻防が繰り広げられ、短手数で決着することも少なくありません。

歴史と再評価

この戦法は江戸時代から存在していましたが、横歩取り自体が長らく下火だったこともあり、昭和時代まで本格的に研究されることはありませんでした。状況を一変させたのは、アマチュア棋士の沢田多喜男氏とプロ棋士の谷川浩司九段です。谷川九段は若手時代にこの戦法を多用し、特に1978年の若獅子戦（対東和男戦）や1979年の王位戦（対森安秀光戦）では、36手で対戦相手を投了に追い込むなど、その威力を見せつけました。

この活躍により、一時はプロ棋界でも流行しましたが、研究が進むにつれ、後手の攻めが無理筋と判断されるようになり、プロ間ではほとんど指されなくなりました。しかし、持ち時間の短いアマチュア対局では、現在でも時折見かけることができます。

定跡からの展開と変化

基本的な定跡
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△8六歩▲同歩△同飛▲3四飛
から、△8八角成▲同銀と角交換した後、△2八歩に▲同銀と取らせて△4五角と進むのが、この戦法の特徴です。

ここから先手の対応は多岐に渡ります。主流は▲7七角または▲2四飛ですが、▲8七歩や▲3五飛なども存在します。▲7七角からの変化では、△8八飛成▲同角△3四角▲1一角成△8七銀などが知られています。

▲2四飛を選択した場合も、後手には様々な選択肢があり、複雑な展開となります。一方、△2八歩を無視して▲7七角と指す「若島・佐々木流」という変化も存在し、1980年代初頭に考案され、一時的に先手有利と評価されましたが、その後は再評価されています。

過去の事例と戦術

谷川浩司九段は1980年代、王位戦予選で▲7七角を採用し、快勝を収めています。この対局では、後手の最善手ではない選択が、先手の勝利に繋がったことが注目されます。

大橋柳雪氏の「平手相懸定跡集」にもこの戦法の手順が記載されており、△4五角に対して▲3六香、▲8八飛、▲8七飛、▲8三飛、▲6八玉などが示されています。また、慶應義塾大学将棋部で研究された▲8五飛は「慶應流」と呼ばれていました。

近年ではコンピュータ将棋ソフトの発達により、▲3六香の代わりに▲5五飛という手が発見されています。

急戦：△3八歩

後手は△3八歩と打つ急戦も可能です。これは先手の陣形を乱す意図で、江戸時代の棋書には記載がありますが、現代のプロ棋戦ではほとんど見られません。この手に対する先手の対応によって、戦型は大きく変化します。

まとめ

横歩取り4五角は、古くから存在するものの、現代将棋においても研究の余地が残る奥深い戦法です。後手の積極的な攻めと、先手の正確な受けが勝負を左右する、変化に富んだ戦法と言えるでしょう。アマチュア棋士にとっては、実践を通してその妙味を味わえる魅力的な戦法です。様々な文献や研究から、その奥深さを探求してみるのも面白いでしょう。

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