樫の木の下の聖家族

樫の木の下の聖家族

ラファエロ・サンツィオと弟子ジュリオ・ロマーノによって1518年から1520年にかけて制作された『樫の木の下の聖家族』は、イタリアの盛期ルネサンスを代表する名作です。この作品は、マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の概要

この絵画は、聖母マリアと幼児イエス、さらに洗礼者ヨハネと聖ヨセフを描いたもので、樫の木の下で休む聖家族の一瞬を切り取っています。聖母マリアは古代の遺跡の近くに座り、大きな石に左腕を乗せています。幼児イエスは残念ながら不安定な姿勢でマリアの右膝に、彼女の支えを受けて座っています。その足元には揺りかごがあり、キリストと洗礼者ヨハネがそれに足を乗せています。

特に印象的なのは、洗礼者ヨハネが持つ巻物です。この巻物には「エッケ・アニュス・デイ」と書かれており、これは「見よ、神の仔羊を」という意味です。キリストはこの言葉の持つ重さを理解し、微笑んで聖母マリアを見上げています。この瞬間に込められた意味は、彼の受難を予感させるものでもあります。

構図と背景

本作の構図は、典型的なピラミッド型の配列ではなく、画面を斜めに横切るように配置されています。これにより、各人物の表情や動作はよりダイナミックに表現されています。背景にはテヴェレ川の景色が広がり、古代ローマの遺跡の廃墟も見受けられます。これらは聖家族の存在を際立たせるヒントになります。

特に注目すべきは、背景に描かれている古代遺跡の石材です。その浮き彫りには古代女性の姿が透けて見えますが、聖母のマントに隠れて顔ははっきりしていません。これは、強いルネサンス期の伝統を感じさせる表現です。

制作の背景

『樫の木の下の聖家族』は、ラファエロ自身によるアイデアやスケッチから始まり、その後、弟子のジュリオ・ロマーノによって仕上げられたとされています。この事実が示すように、ラファエロの影響は作品全体に色濃く残されています。発注主や初期の来歴については不明ですが、1640年にはスペイン国王フェリペ4世の下に渡ったことで、スペイン王室のコレクションへと加わりました。

複製とその影響

ラファエロの名作はその後多くの模写や複製がなされ、特にフィレンツェのパラティーナ美術館にある『トカゲの聖母』はそのうちの一つで有名です。この作品には特徴的な小さなトカゲが描かれており、興味を引く要素となっています。また、絵画は1799年にナポレオンによって略奪され、その後1816年に返還されました。

結論

『樫の木の下の聖家族』は、ラファエロの最晩年の作品として、聖家族の穏やかな瞬間とその背後に潜む深い意味を描き出しています。彼の技術と感受性、そして師と弟子の共同作業が生んだ美の結晶であり、今も多くの人々に影響を与え続けています。この作品は、ルネサンス美術における重要な位置を占めるとともに、宗教的なテーマとその深遠さを体現したものです。

もう一度検索