ジュリオ・ロマーノ

ジュリオ・ロマーノ：マニエリスムを体現した建築家・画家

ジュリオ・ロマーノ（Giulio Romano, 1499年？ - 1546年11月1日）は、ルネサンス後期のイタリアで活躍した建築家・画家です。その作品は、幻想的で官能的なマニエリスム様式を特徴とし、後世の芸術家たちに多大な影響を与えました。

生涯と業績

ローマで生まれ育ったジュリオ・ロマーノは、若くしてラファエロの工房に入り、才能を開花させました。1513年には、ラファエロの工房で最も重要な人物の一人となり、その名声は教会国家の枠を超えて広まりました。20代前半には、マントヴァのパラッツォ・ドゥカーレ内のイザベラ・デステの「グロッタの居室」を計画するなど、その才能は早くから認められていました。

1524年には、マントヴァ侯爵フェデリーコ・ゴンザーガに招かれ、夏の離宮であるパラッツォ・デル・テの建築家に任命されます。その後、約20年間マントヴァで活動し、ゴンザーガ家の庇護の下、その特異な才能を開花させました。彼はマントヴァの建築計画をほぼ独占し、他の建築家と比較して非常に自由に自分の建築を実現できる特権的な立場にありました。

ラファエロの死後、彼の工房の作品も多く手がけ、バチカン宮殿の壁画や「キリストの変容」などの作品は、ジュリオ・ロマーノの手によるものとされています。

ジュリオ・ロマーノの建築に対する影響は大きく、ミケーレ・サンミケーリ、セバスティアーノ・セルリオ、ヤーコポ・サンソヴィーノなど、多くの建築家に影響を与えました。また、ガレアッツォ・アレッシや若きアンドレーア・パッラーディオの建築にも、その影響が見られます。

主な作品

パラッツォ・デル・テ（テ宮殿、1526-1535年、マントヴァ）
ジュリオ・ロマーノの建築家としての最高傑作とされ、マニエリスム建築の代表作です。古典主義建築の規則にとらわれない自由な造形が特徴で、粗石積みに見える壁は化粧漆喰で仕上げられています。また、だまし絵やルネサンス建築の規範から逸脱した要素が多数見られます。特に有名なのは、内部にある「巨人族の没落」の壁画です。これはマニエリスム美術の傑作として高く評価されており、天井全体を覆う大神殿の描写はイリュージョンに満ちています。

ロマーノ自邸（1544年-、マントヴァ）
ジュリオ・ロマーノ自身が設計した邸宅で、その規模から彼の財産が相当なものであったことがうかがえます。非対称ながらも繊細なファサードが特徴で、ブラマンテ設計の「ラファエロの家」のパロディとも評されています。ペディメントや窓枠構造など、従来の建築様式にとらわれない手法が用いられ、建築史家からも高く評価されています。

ヴィッラ・トゥリーニ（ヴィッラ・ランテ）（1521年、ローマ）
ペーシャ出身のバルダッサーレ・トゥリーニの郊外別荘として設計されました。

パラッツォ・スターティ（パラッツォ・マッカラーニ）（1523年、ローマ）
クリストーフォロ・スターティからの依頼で建設された住居です。

パラッツォ・ドゥカーレの馬術の中庭（1539年頃、マントヴァ）
ジュリオ・ロマーノが設計した中庭です。

パラッツォ・ティエーネ（ヴィチェンツァ）
ティエーネ家の兄弟からの依頼で、設計と工事監理を担当しました。

マントヴァ大聖堂
火災で焼失した大聖堂の再建計画を、エルコーレ・ゴンザーガから依頼されました。ジュリオ・ロマーノ最後の建築作品となりました。

その他にも、サン・タンドレーア聖堂（マントヴァ）の補修やパラッツォ・アルベリーニの設計など、多くの作品に携わっています。

まとめ

ジュリオ・ロマーノは、ルネサンスからマニエリスムへと移行する時代において、建築と絵画の両分野で卓越した才能を発揮しました。その独創的な様式は、後世の芸術家たちに多大な影響を与え、美術史において重要な位置を占めています。

参考文献

ピーター・マレー著 桐敷真次郎訳『図説世界建築史 ルネサンス建築』（本の友社）
ニコラス・ペヴスナー他著 鈴木博之監訳『世界建築辞典』（鹿島出版会）
P.マレー著 長尾重武訳『イタリア・ルネサンスの建築』（鹿島出版会）
コーリン・ロウ他著 稲川直樹訳『イタリア十六世紀の建築』（六曜社）（2006）
クリストフ・ルイトポルト・フロンメル著 稲川直樹訳 『イタリア・ルネサンスの建築』（鹿島出版会）（2011）
大槻武志著 建築と都市の美学 イタリア<5> 奇想-マニエリスム（後期ルネサンス）（建築資料研究社）（2001）

関連項目

イ・モーディ
* ルネサンス建築

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