橋づくし

橋づくし

『橋づくし』（はしづくし）は、著名な作家・三島由紀夫による短編小説です。この作品は、東京の銀座や築地を舞台に、陰暦8月15日の満月の夜に行われる願掛けの儀式を描いています。登場人物たちは、7つの橋を渡ることで願い事を叶えようとし、その過程でのさまざまな感情や出来事を通じて人間の本質を紐解いていきます。

物語の概要

物語は、新橋の料亭「米井」の娘である満佐子が、同じく芸妓のかな子、小弓、そして彼女の家の女中である田舎娘のみなと共に7つの橋を渡る旅に出るところから始まります。彼女たちは、無言で後戻りせずに橋を渡るという厳格なルールを守りながら、それぞれの願いを心に秘めて進んでいきます。

満佐子は「俳優のRと結婚したい」という願望を抱き、かな子は「良い旦那が欲しい」と、42歳の小弓は「お金が欲しい」とそれぞれ願かけをします。大きな希望を持った彼女たちに対し、田舎娘のみなの存在は対照的で、思いつく願いも朴訥としたものでした。

この4人の女性が7つの橋を渡りながら、その過程での人間関係や葛藤が描かれていきます。最初の橋は三吉橋で、その美しい景観の中で彼女たちは最初の祈りを捧げます。その後、築地橋では思わぬ病に倒れたかな子が脱落し、入舟橋を渡る頃には小弓が知り合いの声に反応して脱落します。

過酷な願掛けの旅の中で、満佐子とみなだけが残り、最終的に迎えた備前橋では、満佐子が警官に尋問されるというトラブルに巻き込まれます。その時、みなは見事に最後の祈りを捧げることに成功します。最終的に誰が願いを叶えたのか、いまだ知らぬまま物語は終わります。

登場人物

この短編には、各キャラクターの個性された描写が光ります。満佐子は22歳の若い女性であり、芸術に通じているものの、恋愛においては未熟で子供っぽい一面を持ちます。対する小弓は豊かな人生経験を持つ42歳の女性芸妓で、その行動には経験則が色濃く反映されています。かな子とみなの性格もそれぞれ異なり、性格や年齢による願いの違いが物語に深みを持たせます。

評価と影響

『橋づくし』は、その意外な結末や巧妙な構成が評価され、多くの文芸評論家や作家から短編の傑作として称賛されています。1958年には舞踊劇として上演され、1961年には新派による劇化も行われました。さらに、1967年には英訳版がフォルメントール国際文学賞で第2位に選ばれるなど、国際的にも評価を受けています。

この作品は、ただの短編小説としてだけでなく、三島由紀夫の文学的姿勢に深く関連する作品となっています。自らの言葉で「冷淡で高雅な客観性」を追求し、固定した観念から解放された独立した感覚が求められます。根底に流れる「願い」というテーマが、登場人物たちの心情や葛藤を導き、読者に深い印象を与える結果となります。

結論

『橋づくし』は、ただの願掛けの旅を通じて人生の本質や欲望、そして偶然の運命の交錯を示す作品です。三島由紀夫の文体に宿る美学と、物語の核心に潜む深いテーマが交錯することで、読み手に考察を促す作品となっています。

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