橋本元一

橋本元一（はしもと げんいち）は、1943年10月13日に静岡県浜松市で生まれた日本の団体役員です。静岡県立浜松北高等学校を経て東京工業大学理工学部電子工学科を卒業。特に、第18代日本放送協会（NHK）会長としての活動が知られています。

大学を卒業した1968年、NHKに入局。最初の配属先は大阪局でした。以来、一貫して放送技術の分野でキャリアを重ねました。長年にわたり、放送技術の発展や設備の構築・維持に貢献し、NHKの技術部門を技術職として支えました。技術局計画部長、技術局長、理事（技術担当）、専務理事技師長といった要職を歴任し、技術畑のエキスパートとしての地位を確立しました。

2004年にNHKで相次いだ不祥事は、組織に対する社会からの信頼を大きく揺るがし、厳しい批判に晒されました。これを受けて、当時の海老沢勝二会長が辞任。後任として、2005年1月25日に第18代NHK会長に就任したのが橋本氏でした。これは技術畑出身者としては初めての会長登用でした。政治部記者出身で強権的な手法が目立った海老沢前会長や、その前の島桂次会長とは対照的に、技術者らしい誠実さや組織のクリーン化、清新さが期待されての選任と言えます。副会長には永井多恵子が就任し、共にNHKの立て直しを図ることになりました。

会長就任にあたり、橋本氏はNHKの「改革・新生」を最重要課題に挙げ、失われた信頼の回復に全力で取り組む決意を示しました。しかし、その道のりは多難でした。中でも受信料問題は大きな焦点となりました。2006年3月30日の参議院総務委員会では、受信料不払いによる減収額を半年間にわたり公表しなかったこと、加えて3月の国会答弁で虚偽の報告をしていたことが厳しく指摘されます。橋本氏はこれらの問題に対し、「深く反省し、心よりお詫び申し上げます」と謝罪しました。また、職員の規律徹底を促すため、業務事務処理用ホームページ上で「ハシゲンさんの今週の一言」と題したメッセージを定期的に発信しました。

NHKの改革に関する議論においては、橋本氏は現行の受信料制度を維持すべきとの立場を崩しませんでした。また、不祥事への謝罪を繰り返す一方で、組織の収益源である受信料の不払いに対しては、法的措置を含む断固たる対応を取りました。この強硬な姿勢は、一部の視聴者からの反発を招く結果となりました。

テレビジョン放送の完全デジタル化という時代の潮流を背景に、橋本氏の任期中には、移行期間を見据えた中期（5か年）経営計画の策定が喫緊の課題となっていました。しかし、2007年9月に経営委員会に提出された計画案は、「内容があまりにも不十分である」との評価を受け、承認を拒否されてしまいます。この時点で、橋本氏の会長としての任期は半年を切っていました。経営委員会は、より抜本的な組織改革を進めるためには、次期会長をNHKの外部から招へいすべきであるとの方針で一致。この決定により、橋本氏の会長退任が不可避な状況となりました。

任期満了を1週間後に控えた2008年1月17日には、複数のNHK職員によるインサイダー取引が発覚するという不測の事態が発生しました。翌18日、橋本氏は経営委員会の古森重隆委員長に辞意を伝達しましたが、任期切れ直前の状況であったため慰留されます。結果として、辞任ではなく、当初の予定通り任期満了となる2008年1月24日付で会長職を退任しました。退任後は、NHK名誉会友の称号を得ています。

会長退任に伴う退職金の支払いについては、2008年の退任時からその処理が保留されていました。この問題は、2009年10月13日に最終的な方向性が確定しました。会長在任期間中の退職金は支払わないという方針となり、それ以前のNHK在職期間分として、計1181万円が支給されました。

NHK会長職以外での活動として、2005年には出身地である浜松市の「やらまいか大使」に就任しています。また、2006年1月から3月にかけては、アジア太平洋放送連合の会長も務めました。個人的なエピソードとしては、2007年に放送されたミニ広報番組『今日も、どこかでNHK』のシリーズ企画において、人気コメディ番組『サラリーマンNEO』のディレクターが制作した作品に出演したことが挙げられます。

橋本元一氏は、NHK初の技術畑出身会長として、組織の信頼が失墜した困難な時期にその立て直しを託されました。技術者としての実直さをもって改革に取り組んだものの、相次ぐ不祥事の後遺症や組織内部の問題、経営委員会との連携などに苦慮し、多くの課題を残したまま任期を終えました。その経験は、公共放送が直面する複雑な問題や、組織トップの役割の難しさを示す一例と言えるでしょう。

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