橋閒石

橋閒石：俳句と英文学の両道を歩んだ生涯

橋閒石（はし かんせき、1903年2月3日-1992年11月26日）は、石川県金沢市出身の俳人にして英文学者です。神戸商科大学名誉教授の肩書きを持ち、俳句誌『白燕』の創刊者であり、その代表も務めました。本名は泰来（やすき）といい、俳号の閒石は、書家であった祖父の号に由来しています。

金沢から神戸へ：教育者としての歩み

金沢二中（現・石川県立金沢錦丘中学校・高等学校）、第四高等学校を経て京都帝国大学英文科を卒業後、和歌山県立和歌山中学校（現・和歌山県立桐蔭高等学校）教諭に就任しました。その後、兵庫県立神戸高等商業学校（現・兵庫県立大学）教授に転じ、神戸へと移り住みます。神戸での生活は、彼の俳句人生に大きな転機をもたらしました。

神戸で寺崎方堂と出会い、連句を師事。素風の号で方堂の句会『蘿月』（のち『正風』）に参加し、大学での英文学研究と並行して、俳諧研究と連句創作に精力的に取り組むことになります。1935年には、立机を許され、号を閒石、庵号を清可荘と改めました。1943年には方堂から四空窓の号を譲り受けました。戦時下の1944年には、『俳諧史講話』（1946年刊行）を脱稿しますが、戦災によって自宅が焼失し、それまでの句稿を失うという痛手も経験しました。

『白燕』の創刊と発展：俳句界への貢献

1949年、橋閒石は、勤労動員に出ていた川崎重工の学生たちを巻き込み、俳句、連句、随筆を柱とした月刊誌『白燕』を創刊、主宰となります。これは、彼にとって大きな転換期であり、方堂の『正風』を離れる決断でもありました。『白燕』という誌名は、荷兮の句「白燕濁らぬ水に羽を洗ひ」に由来しています。1957年には『白燕』を隔月刊の同人誌に改組し、同人代表となりました。

大学教授から俳句界の重鎮へ

1968年には神戸商科大学を定年退職し名誉教授となります。その後、親和女子大学教授、学長を歴任しました。1969年には大谷篤蔵とともに神戸俳文学会を設立し、1976年には連句の研究・実作指導のための白燕連句会を開設するなど、俳句界への貢献は多岐に渡ります。

受賞歴と晩年

1984年には『和栲』で第18回蛇笏賞、1988年には『橋閒石俳句選集』で第3回詩歌文学館賞を受賞。1991年には連句協会より功労賞を受賞するなど、その功績は高く評価されました。1992年11月26日、心不全により死去しました。

創作活動：多様な表現と実験性

代表的な句として「蝶になる途中九億九光年」「階段が無くて海鼠の日暮かな」「銀河系のとある酒場のヒヤシンス」などが挙げられます。彼の作品は、初期の郷愁的な作風から、社会性俳句、前衛俳句への傾倒、そして晩年の俳諧的な作風へと変化を遂げました。その背景には、年齢を重ねたことや連句への回帰、そして何よりも、自由な心からの表現への志向が見て取れます。

著作

橋閒石は多くの句集、俳句に関する著作、そして英文学の翻訳を残しました。その著作リストは以下に示す通りです。

句集:
雪
朱明
無刻
風景
荒栲
卯
和栲
虚
橋閒石俳句選集
微光
鷺草（非懐紙連句集）
橋閒石全句集

俳書・随筆:
俳句史講話
俳句史大要
泡沫記
「奥の細道歌仙」評釈
俳諧余談
俳句史大要（歴史と評伝と評釈）

翻訳:
ソロー・アンド・ギッシング
オリヂン オブ スピーシーズ
* 日時計

橋閒石は、金沢の文学的気風の中で育ち、泉鏡花、室生犀星、西田幾多郎らの影響を受けながらも、俳句においては独学で道を切り開いた稀有な存在でした。彼の生涯と作品は、俳句と英文学という異分野を融合させた、独特の輝きを放ち続けています。

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