橘丸事件

橘丸事件

橘丸事件は、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）に、日本陸軍が病院船「橘丸」を使用して兵員と武器を輸送し、戦時国際法に違反した事件です。この事件は、日本陸軍が多数の捕虜を出すという結果を招き、その後の裁判で関係者が有罪となるなど、大きな波紋を呼びました。

事件の背景

日本軍の病院船

1943年当時、日本軍は陸軍が17隻、海軍が4隻の病院船を連合国に通告していました。しかし、陸軍は通告されていない病院船も運用しており、その中にはアメリカ潜水艦によって撃沈された「はるぴん丸」も含まれていました。この事件は、日本側が「アメリカ軍の非人道性」を批判する一方で、「はるぴん丸」が病院船としての正規な登録や塗装をしていなかったという事実も存在しました。

連合国軍による日本の病院船への攻撃も相次ぎ、「ぶゑのすあいれす丸」が撃沈されるなどの被害が発生しました。終戦時に残存した陸軍病院船は「橘丸」のみで、他の病院船は連合国軍の攻撃や触雷によって失われました。

連合国軍の病院船

日本軍も連合国側の病院船に対して攻撃を行った事例があります。1942年にはオランダ病院船「オプテンノール」を抑留し、1943年には伊号第一七七潜水艦がオーストラリア病院船「セントー」を撃沈しました。「セントー」撃沈事件は、連合国側の将兵に「日本の病院船への攻撃に対する報復」と受け止められました。

病院船を用いた軍事輸送

日本軍は、戦時国際法で禁止されている兵員や物資の輸送を病院船で行っていました。1944年には「ばいかる丸」が爆薬入りの木箱や見習士官を輸送し、1945年には海軍病院船「高砂丸」が食糧をウェーク島へ輸送しました。これらの違反行為は連合国軍にも疑われ、臨検や威嚇飛行が繰り返されるようになりました。

事件の発生

1945年7月、「橘丸」はカイ諸島からの兵力後退輸送任務「光輸送乙号作戦」に従事しました。1,562名の将兵は白衣を着て患者を装い、武器や弾薬を赤十字の標章を付けて梱包しました。しかし、アメリカ軍は通信傍受によって「橘丸」が兵士を輸送していることを把握していました。

8月3日、アメリカ海軍駆逐艦「コナー」と「チャレット」が「橘丸」を停船させ、臨検を実施しました。臨検隊は船倉から小銃や弾薬を発見し、「橘丸」は国際法違反により拿捕されました。将兵は捕虜となり、乗組員も収容所に収容されました。

事件の影響

「橘丸」拿捕はオーストラリア放送で報じられ、日本側もその事実を知ることとなりました。南方軍総司令官の寺内元帥は激怒し、「爆撃機をだして撃沈せよ」と命令したと伝えられています。カイ島トアルの戦闘指揮所長を兼ねていた第五師団の参謀長浜島厳郎大佐が責任をとって自決し、さらに山田師団長も自決しました。

裁判

橘丸事件の裁判は、アメリカ第8軍司令官が招集した軍事委員会が主催する横浜法廷で行われました。沼田多稼蔵中将、和知鷹二中将、豊嶋房太郎中将らが有罪判決を受けましたが、渡辺三郎少将、長野祐一郎中将、森康則中佐、大森繁軍医少佐、安田喜四郎軍属（橘丸船長）らは無罪となりました。

橘丸事件は、戦時下における国際法の遵守という問題を提起し、その後の戦犯裁判にも影響を与えました。この事件は、戦争の悲惨さと国際法の重要性を改めて認識させる出来事として、歴史に刻まれています。

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