機関車トーマス (絵本)

機関車トーマス（汽車のえほん2）

本書は、低学年の子どもたちに長く愛される絵本シリーズ『汽車のえほん』の記念すべき第2巻にあたります。正式名称は『機関車トーマス（汽車のえほん2）』といい、原題は Thomas The Tank Engine です。ウィルバート・オードリー牧師によって執筆され、1946年10月18日にイギリスで初めて出版されました。

この第2巻には、主人公である機関車トーマスの活躍を描いた四つの短い物語が収められています。

挿絵の変遷と特徴

物語の魅力を伝える挿絵は、出版当初はレジナルド・ペイン氏が担当しました。しかし、後の増刷版からはレジナルド・ダルビー氏の描いた絵に差し替えられています。

ダルビー氏がこの巻で描いた挿絵は、シリーズの他の巻で見られる彼の画風とは一線を画す独特なタッチが特徴です。他の巻と比較すると、より黒が多く使われ、荒々しい印象を受けるかもしれません。しかし、機関車の細部に至るまで、非常にリアルに描写されています（特に火室部分の滑らかなカーブの描き方など）。この写実的なタッチは、ダルビー氏の通常のスタイルとしては珍しいものです。

なぜこのようなタッチになったのかというと、ダルビー氏が初版のペイン氏の挿絵を、ほぼそのまま手本として描き直したためと考えられています。そのため、ペイン氏の初版の絵と、現在流通しているダルビー氏の重版版の絵は、大部分でよく似ています。しかし、ダルビー氏によって若干変更された箇所も存在します。例えば、「トーマスとゴードン」という話に出てくる五枚目の挿絵では、ペイン氏の絵ではトーマスが後ろ向きに客車を牽引しているのに対し、ダルビー氏の絵ではトーマスが前向き（客車の妻面に顔を向けた状態）でバック運転をしている様子が描かれています。

日本語版の出版

日本では、株式会社ポプラ社から日本語訳が出版されています。最初に発行されたのは1973年11月でした。その後、2004年頃に一時的に品切れとなり重版未定となりましたが、2005年には装いも新たに改訂版が出版されました。さらに、2010年12月にはコンパクトサイズの「ミニ新装版」も発売されています。

収録作品

本書に収録されている四つの短編は以下の通りです。

トーマスとゴードン (Thomas and Gordon)
トーマスの列車 (Thomas' Train)
トーマスと貨車 (Thomas and Trucks)
トーマスときゅうえん列車 (Thomas and the Breakdown Train)

本巻に登場する主なキャラクター

『汽車のえほん』や、これを原作としたテレビシリーズでレギュラーとして活躍する機関車たちが登場しますが、ここではこの第2巻において特に注目すべき点を紹介します。

トーマス: 主人公であるトーマスには、最初から車体に番号の「1」が描かれています。これは、作者であるオードリー牧師の息子さんが持っていたおもちゃのトーマスに「1」がついていたことに由来します。挿絵を描いたレジナルド・ペイン氏は、そのおもちゃをそのまま絵にはできませんでしたが、ロンドン・ブライトン・アンド・サウスコースト鉄道の「クラスE2」という機関車をモデルにトーマスの姿を描きました。作中では、トーマスの前方に設置される列車種別標識灯の位置によって、彼が牽引している列車の種類が表現されています。例えば、ヘンリーの代わりに旅客列車を牽引する際は、おでこの位置にライトがきちんと移動しています（これは普通旅客列車を示す合図です）。また、エドワードの代わりに各駅停車の貨物列車を牽引する際は、ランボード（機関車の側面の歩み板）の向かって左側に一つライトが点灯します（これは各駅停車の貨物列車を示します）。
ジェームス: 本書がジェームスの初登場の巻です。初めて姿を見せた時は、後にトレードマークとなる赤い色ではなく、黒い塗装でした。また、この巻でのみ、目が丸く描かれているのが特徴です。作中では、木製のブレーキシューが摩擦で燃え上がるという事故に見舞われますが、このエピソードは、かつてロンドン・ミッドランド・スコティッシュ鉄道のリッキー・インクラインで実際に発生した事故を基にしています。
ゴードン: 本巻に登場する急行用機関車のゴードンも、列車種別標識灯によって彼が牽引する列車の種類が示されます。彼のランボードの両側にライトが一つずつ、合計二つ点灯している時は、急行列車を表します。
ヘンリー: この巻のヘンリーは、登場はするものの、物語の中で目立った活躍はありません。体調がすぐれない様子が描かれています。前巻の最終エピソードで塗装が変更されたため、本書では青い姿で登場します。
* エドワード: エドワードも本書に登場し、トーマスと短い会話を交わしますが、物語の中での大きな活躍はありません。

本書は、シリーズの顔とも言えるトーマスのキャラクターが確立される重要な一冊であり、後の人気キャラクターであるジェームスの登場巻としても記憶されています。挿絵の変遷や、キャラクター描写における細部へのこだわりも、『汽車のえほん』シリーズの奥深さを感じさせます。

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