檄 (三島由紀夫)

檄（げき）についての考察

三島由紀夫が残した『檄』は、彼の人生と思想を深く知るための貴重な文書です。この声明文は、1970年11月25日、陸上自衛隊の市ヶ谷駐屯地にて彼がバルコニーから演説した際に撒かれたもので、約9枚分の原稿の中には彼の強い思いが詰まっています。文は10段落から構成され、三島の肉筆でB4の2枚に書かれています。彼の逝去後はさまざまな媒体で引用されることが多く、影響力の大きさを示しています。

この声明文は、三島が自衛隊に4年間身を置き、その中での経験を反映させています。彼は、自衛隊への愛情故にこの行動を選んだと述べ、「経済的繁栄にうつつを抜かす」「国の大本を忘れる」日本の現状を憂いています。三島は、国民精神の喪失や権力欲、偽善に陥った政治についても触れ、日本人が自らの歴史と伝統を軽視する様を強く批判します。

さらには、「天皇を中心とする日本の歴史・文化・伝統を守る」という自衛隊の本来の役割が忘れられている現実に対して、国家の方向性の修正と自衛隊を国軍にすることの重要性を訴えました。彼は、その実現のためには議会制度下では困難であり、1969年の国際反戦デーのデモが憲法改正の好機であったことを指摘、政府がデモ隊を警察の力のみで制圧したことへの失望を表明しました。三島はこの日は国の根本問題から目を背け続け、改憲が政治プログラムから永久に排除される懸念を抱いていました。

また、彼は自衛隊員への呼びかけを行い、魂が失われた状態に対する疑問を投げかけ、武士の魂が行方不明になっていると嘆きます。そして、核停条約に対して自衛隊からの声がなかったことへの失望も表し、抗議をする戦士の姿勢が必要であると訴えました。

声明の終わりには、彼は自衛隊員に向かって「至純の魂を持つ男子として生まれ変わることを望んでいる」と再度呼びかけ、その行動の背後に広がる思いを伝えます。『檄』は、彼自身の心の叫びであり、彼の哲学の集大成とも言える作品です。

この声明文はその後、各種のメディアに掲載され、特に早くから全文を掲載したのは『サンデー毎日』でした。また、英訳版も存在し、Harris I. Martinによる翻訳が、海外の文献としても紹介されています。

三島由紀夫の『檄』は彼の思想や行動の背景にある深い意味を理解するために重要であり、彼が死後もなお日本における文化や思想に影響を与え続けていることを物語る一文です。

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