檸檬 (小説)

梶井基次郎『檸檬』

『檸檬』（れもん）は、梶井基次郎によって書かれた短編小説であり、彼の代表作として広く知られています。この作品は、得体の知れない憂鬱な心情や、ふと抱いたいたずらな感情を、色彩豊かな事物や心象と共に詩的に描いたものです。

発表の経緯

1925年1月1日に発行された同人誌『青空』の創刊号に掲載されました。その後、1931年5月15日には、三好達治らの尽力により武蔵野書院から単行本として刊行されました。この単行本は、梶井が生涯で唯一出版した書籍となりました。

あらすじ

物語は、「私」の心を始終圧えつけていた「えたいの知れない不吉な塊」から始まります。音楽や詩にも癒されず、丸善も重苦しい場所に変化していました。そんなある日、「私」は寺町通の果物屋で、美しく積まれたレモンに出会います。レモンを一つ買ったことで、心に圧し掛かっていた塊がいくらか弛み、「私」は幸福を感じます。

久しぶりに丸善に立ち寄った「私」は、憂鬱な気分を晴らすために画集を手に取ります。しかし、気持は晴れず、レモンを画集の上に置いてみます。すると、レモンイエローが周囲の色を吸収し、鮮やかに冴え返るのを感じます。そして、「私」はレモンを爆弾に見立て、そのまま店を出ていくという空想を抱き、京極を下っていきます。

作品成立の背景

『檸檬』の原型は、1924年に書かれた習作『瀬山の話』の中の挿話「檸檬」にあります。この挿話を数回の改稿を経て、独立した短編『檸檬』として完成させました。梶井は友人に宛てた手紙の中で、『檸檬』をあまり積極的に評価していなかったことを述べていますが、淀野隆三はこれを逆説的な表現だと解釈しています。

作品の評価・研究

『檸檬』は、日本文学の傑作として多くの作家に高く評価されています。当初は注目されていませんでしたが、単行本化後に小林秀雄が高く評価したことで、梶井は文壇に認められるようになりました。三島由紀夫は、『檸檬』を日本の短編の最高傑作と評し、その鮮やかな感覚的印象を高く評価しています。

石井和夫は、『檸檬』のモチーフがエドガー・アラン・ポーの『鐘楼の悪魔』から発想されたのではないかと考察しています。

モデルの店と文学碑

作中に登場する果物屋「八百卯」は、京都市中京区寺町二条角にありましたが、2009年に閉店しました。また、丸善は当時、三条通麩屋町西入ルにありました。大阪市西区の靱公園内には、『檸檬』の一節が刻まれた文学碑が建立されています。

創作集『檸檬』

1931年5月15日に武蔵野書院から刊行された初の創作集『檸檬』は、淀野隆三の提案により書名が決定し、表紙装幀は梶井の希望で無地となりました。

さまざまな派生作品

『檸檬』は、テレビドラマ化や楽曲のモチーフになるなど、様々な形で派生作品が生まれています。さだまさしの楽曲「檸檬」や、加藤シゲアキが監督を務めたショートフィルム「渋谷と１と０と」など、『檸檬』の世界観やテーマを受け継いだ作品が存在します。

『檸檬』は、今もなお多くの読者に愛され、日本の近代文学を代表する作品として読み継がれています。

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