櫻内乾雄

櫻内 乾雄

櫻内 乾雄（さくらうち きみお）は、明治38年（1905年）5月8日に生を受け、昭和52年（1977年）4月3日にその生涯を終えた日本の実業家です。特に中国電力株式会社の会長として知られ、戦後の電力事業の復興と発展に尽力しました。父は商工大臣や大蔵大臣などを歴任した政治家の櫻内幸雄、弟は衆議院議長を務めた櫻内義雄であり、政界に大きな影響力を持つ櫻内家の出身として、自身も経済界で重要な役割を果たしました。

出自

乾雄は東京市芝区で生まれましたが、その本籍地は島根県能義郡広瀬町（現在の安来市）にありました。櫻内家は、旧藩時代に広瀬藩主であった松平家に仕えた武士の家系に連なります。曽祖父にあたる四郎左衛門以前の系譜については、現在では詳細は判明していませんが、四郎左衛門は藩の側用人という要職に就き、理財にも秀でていたと伝えられています。広瀬藩の財政経済においては、中心的な指導者として藩の運営を支えました。このような家系を背景に、乾雄は育ちました。

学歴と初期キャリア

学業においては、明治中学校（現在の明治大学付属明治高等学校・中学校）、旧制静岡高等学校を経て、昭和5年（1930年）に東京帝国大学工学部電気工学科を卒業しました。卒業後はさらに大学院に進み、専門分野への造詣を深めました。研究生活の後、電力業界でのキャリアをスタートさせ、最初に台湾電力に入社しました。植民地時代の台湾での経験は、その後の電力事業に携わる上での基礎を築いたと言えるでしょう。

電力業界での歩み

台湾電力での勤務を経て、内地に戻り出雲電気へ移籍しました。ここでは参事、支配人、取締役と順調に昇進し、最終的には専務の地位に就きました。この時期に、地域電力会社での経営実務を深く学びました。昭和17年（1942年）、戦時体制下における配電統制令により、電力業界は再編され、出雲電気は中国配電の一部となりました。乾雄は引き続き中国配電で働き、部長や支店長といった要職を歴任しました。戦後、中国配電は現在の中国電力へと移行し、乾雄は戦後の混乱期から高度経済成長期にかけて、中国電力の経営を担う重要な人物の一人として活躍し、最終的には同社の会長に就任しました。電力供給という社会インフラの維持・発展に貢献した功績は大きいと言えます。

地域社会での活動

電力事業に携わる傍ら、乾雄は郷里である島根県を中心とした地域経済界やスポーツ振興にも尽力しました。松江体育協会会長、松江商工会議所会頭、島根県商工会議所連合会会頭、島根県体育協会会長、島根県経営者協会会長など、多岐にわたる団体の要職を歴任しました。また、全国組織である日本商工会議所の理事も務め、地方経済の活性化や産業振興に広範な影響力を持ちました。地域社会の発展に貢献しようとする強い意欲を持っていたことがうかがえます。

人物像と親族

個人の側面では、趣味は碁と旅行であり、日蓮宗を信仰していました。人間関係においては、明治中学校の1年生の頃からのクラスメートである嶺駒夫とは生涯にわたる親友でした。この嶺駒夫は実業家として知られ、後に乾雄の妹である淑子と結婚しています。嶺駒夫と淑子の娘にあたる嶺貴代子は、後に内閣総理大臣となる福田康夫の妻となりました。このように、乾雄の親族関係は政財界の要人とも深く繋がっていました。

乾雄の家族構成は以下の通りです。

父：櫻内幸雄（実業家、政治家）
弟：櫻内義雄（政治家）
妹：淑子（実業家・嶺駒夫の妻）
先妻：百合子（実業家・政治家である佐々田懋の孫娘）
後妻：たま子（葉住三郎の娘、実業家・葉住利蔵の孫）
姪：嶺貴代子（妹・淑子の娘、政治家・福田康夫の妻）
叔父：櫻内辰郎（政治家）

櫻内乾雄は、名門の出身でありながらも、自ら電力事業という実業の世界で確固たる地位を築き上げました。また、郷里における経済や体育の振興にも貢献するなど、多方面にわたる活躍を見せた実業家でした。その生涯は、激動の昭和史と共に歩み、日本の経済社会、特にエネルギー産業の基盤作りに関わった重要な人物の一人として記憶されています。

参考文献

『新日本人物大観』（島根県版）人事調査通信社 1957年
* 河野幸之助『櫻内家の人々』日本時報社 1965年

もう一度検索