欧州会計監査院

欧州会計監査院：EU予算の番人

欧州会計監査院（European Court of Auditors、ECA）は、欧州連合（EU）の財政の健全性を確保するために設立された独立した監査機関です。1975年の条約に基づき1977年に発足し、ルクセンブルクに本部を置いています。EUの他の主要機関と対等な地位を持ち、その権限は、マーストリヒト条約、アムステルダム条約、ニース条約などを通して徐々に拡大されてきました。

組織と委員

ECAは、EU加盟国それぞれから1名ずつ委員が任命されます。委員は高い能力、適性、そして独立性を備えていることが求められ、欧州議会の諮問を経て欧州連合理事会によって任命されます。任期は6年です。委員の中から互選で委員長が選出され、任期は3年、再選が可能です。

委員長は、2022年1月16日現在、アイルランド出身のトニー・マーフィー氏が務めています。委員は必要に応じて、特定分野の報告書作成のために小委員会を設置することができます。組織運営は事務総長が担い、約760名の職員が様々な専門分野に分かれて監査業務に従事しています。

ECAの職員は、EU機関、加盟国、EUから支援を受けている国々において監査を実施します。ただし、ECA自身には強制的な措置を講じる権限はありません。不正を発見した場合、他のEU機関に通報し、その後の対応を委ねることになります。

監査業務と年間報告書

ECAの主要な任務は、EU予算に関する年間報告書を作成し公表することです。この報告書は、翌年度の11月30日までに作成され、EUの官報に掲載されます。報告書作成にあたっては、EU各機関はECAに全面的に協力する義務を負っています。この報告書は、欧州議会における予算審議において重要な役割を果たします。また、予算執行に問題がないと判断した場合には、予算が適切に使われたことを保証する表明文書も提出します。

サンテール委員会との関係

ECAは、1998年から1999年にかけて、欧州委員会の会計監査を実施し、委員会が適法かつ公正な職務執行を行っていないと結論付けました。これを受け、サンテール委員会は反論したものの、翌日総辞職するという事態に発展しました。この出来事は、ECAの監査の厳格さと影響力の大きさを示す象徴的な出来事となりました。1990年代以降、ECAは多くの監査報告において、EU機関の会計処理や予算執行に関して否定的な見解を示すことが増えています。

OLAFとの連携

ECAと欧州委員会の欧州不正対策局（OLAF）は、それぞれ異なる役割を担っていますが、協力関係にあります。ECAは監査を通じて不正を検出し報告する権限を持ちますが、OLAFは不正行為についてより踏み込んだ調査と処罰を行うことができます。両機関の連携は、EU予算の不正防止に不可欠です。

まとめ

ECAは、EU予算の透明性と説明責任を確保するために重要な役割を果たす独立機関です。その厳格な監査と報告は、EUの財政健全性を維持し、EU市民の信頼を確保する上で不可欠です。ECAの活動は、EUのガバナンスの向上に大きく貢献しています。

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