歌川広重 (3代目)

三代目 歌川広重：激動の明治を描いた浮世絵師

三代目歌川広重（1842年 - 1894年）は、初代歌川広重の門人であり、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師です。本名は後藤寅吉、後に安藤寅次郎と名乗り、安藤徳兵衛とも呼ばれていました。一立斎と号しました。

生涯と画業

三代目広重は、深川の船大工の息子として生まれ、後に会席料理屋「百川」の養子となります。1860年代初頭から「重政」の名で絵を描き始めましたが、1865年に二代目広重が師の家を去った後、その後を継ぎました。1867年には初代広重の養女と結婚し、「二代目歌川広重」を自称しましたが、実際には三代目にあたります。これは、歌川国貞と同様に、意識的に二代目を抹殺するためでした。

三代目広重は、横浜絵など、当時の新しい風俗を描く一方で、初代、二代目と同様に「東海道五拾三次」も手がけました。しかし、彼が描いた東海道は、明治という時代を反映し、蒸気機関車や蒸気船、鉄道、洋風建築、洋服、散切り頭の民衆、人力車など、文明開化の産物を積極的に取り入れたものでした。

特に、1872年に開通した新橋横浜間の鉄道の登場は、当時大きな話題となり、浮世絵師たちが想像を膨らませて描いた錦絵は、全国にニュースとして流れました。三代目広重は、これらの文明開化の様子を、毒々しいアニリン紅を多用して描いたため、彼の開化絵は「赤絵」と呼ばれ、当時の騒々しい世相を映し出すものとして評価されました。これらの作品は、初代広重の持つ叙情性とは異なりますが、明治前期の時代色を良く伝えています。

また、三代目広重は、開化絵の他にも、東京名勝絵や諸国の物産絵などを多く描いています。彼は、1876年には中橋大鋸町に住み、その後、京橋弓町や南紺屋町に転居しています。

代表作

三代目広重の代表作として知られるのは、1882年に描かれた大判錦絵三枚続「東京名所之内 銀座通煉瓦造鉄道馬車往復図」です。この作品には、煉瓦造りの西洋館、ガス灯、東京馬車鉄道、人力車などが描かれ、当時の銀座の様子を鮮やかに伝えています。画面の右端には東洋日報、左端には朝野新聞社の社屋も描かれており、当時の社会状況を知る上で貴重な資料となっています。

また、1881年に作画された「上野公園 内国勧業第二博覧会美術館并猩々噴水器之図」では、内国博覧会会場（上野公園）の煉瓦造りの美術館前に集まる人々を、珍しげに眺める様子が描かれています。

最期

三代目広重は53歳で亡くなりました。死因は口蓋がんで、亡くなる3ヶ月前に知人に宛てた手紙には、痛みに耐えながらもユーモラスに病状を綴っており、「汽車よりも早い道中双六は目の前を飛ぶ五十三次」という辞世の短歌を残しています。墓所は初代広重と同じ東岳寺にあり、法名は功降院機外立斎居士です。

主な作品

「横浜商館之図」　大錦3枚続　慶応3年
「東京名勝図会」　大錦揃物　明治元年
「東京名勝高縄鉄道之図」　大錦3枚続　明治4年
「横浜海岸鉄道蒸気車図」　大錦3枚続　明治7年
「横浜郵便局開業之図」　大錦3枚続　明治8年
「大日本物産図会」　横中判揃物　明治10年
「東京名所之内　銀座通煉瓦造鉄道馬車往復図」　大錦3枚続　明治15年
「穴守神社・羽根田浦図」　絹本着色　双幅
「江ノ島より富士眺望図」　絹本着色
「南湖の左富士」　絹本着色
* 「駿河薩多峠」　絹本着色

三代目歌川広重の意義

三代目歌川広重は、明治という激動の時代に、新しい文化や技術を取り入れながら、独自の浮世絵の世界を築き上げた浮世絵師です。彼の作品は、当時の社会状況を伝える貴重な資料であるとともに、明治美術の重要な一部として、現在も高く評価されています。

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