正村竹一

正村竹一（まさむら たけいち）

1906年（明治39年）9月5日から1975年（昭和50年）10月18日までを生きた日本の実業家、正村竹一は、「パチンコの父」や「パチンコの神様」、あるいは「現代パチンコの生みの親」として広く知られています。彼の最も重要な功績は、パチンコ機の画期的な釘配置である「正村ゲージ」を考案したことにあります。この技術革新は、その後のパチンコ産業に絶大な影響を与え、現在のパチンコ台の釘構成の原型ともなっています。

岐阜県稲葉郡茜部村（現在の岐阜市）に生まれた正村は、小作人の家庭の九人兄弟の三男でした。幼い頃から奉公に出され、大正時代には指物職人として働きました。その後、酒問屋での奉公中にその器用さを活かし、自動ビン洗い機などを開発するなど、早くから発明の才を示しています。1927年（昭和2年）、名古屋市でガラス商「正村竹一商店」を開業し独立を果たしました。結婚や子供の誕生を経験する中で、彼は子ができるたびに新しい事業を始めるというユニークな習慣を持っていました。ガラス商の傍ら、アイスキャンディー店などを経営しています。

彼の人生において大きな転機となったのは、1936年（昭和11年）頃にパチンコ店「スピード野球ボール」を開業したことでした。しかし、戦時体制下でパチンコ営業や製造が禁止され、彼は軍需工場である愛知航空機に徴用されます。終戦間際の空襲で重傷を負うも一命を取り留め、戦後の1946年（昭和21年）にパチンコ店を再開します。この時期に、彼はパチンコ機の改良に着手し、1948年（昭和23年）についに「正村ゲージ」を完成させました。翌年にはこのゲージを搭載したパチンコ機「オール10」を開発し、販売を開始すると、その画期的な性能から瞬く間に大ヒット商品となります。毎朝、店には300メートルにも及ぶ買い求める人々の行列ができたといいます。1951年（昭和26年）には株式会社正村商会を設立し、最盛期には月産約2万台を製造、当時の年商は10億円を超える規模に達しました。

しかし、順風満帆ではありませんでした。1952年（昭和27年）には自宅が家宅捜索を受け、金の延べ棒を押収されるという事件に見舞われます。これは後に公定価格で買い取られましたが、当時の闇市場価格や現在の価値に換算すると膨大な損失だったとされています。さらに、1954年（昭和29年）には連発式パチンコが規制され、パチンコ業界全体が低迷期に入ります。正村商会も影響を受け、1966年（昭和41年）にはパチンコ製造の直営工場を閉鎖し、事実上パチンコ事業から撤退しました。

パチンコ事業引退後は、ガソリンスタンド経営などに携わりました。晩年には肺がんを患い、1975年（昭和50年）に69歳でその生涯を閉じました。

正村竹一は、喘息持ちでありながら睡眠時間を惜しんで働く仕事人間であったと伝えられています。また、人種や国籍に関係なく、自らのパチンコ台を求める者には分け隔てなく販売したというエピソードも残されています。特に彼の哲学として語り継がれているのは、正村ゲージの特許を取得しなかったことです。多忙や特許料が不要なほどの利益があったという説もありますが、本人は独占を望まず、良いものは皆で共有し真似るべきだという考えを持っていたというのが通説です。彼は「みんなで仲良く使うがええがや」という言葉を残しており、この思想がうかがえます。また、極端な銀行嫌いだったという一面もありました。

パチンコ事業の隆盛を築き、「大丈夫 パチンコは孫子の代までつづくで」と語った正村竹一。彼の発明した正村ゲージは、現代パチンコ産業の揺るぎない基盤となり、その革新的な精神は今なお語り継がれています。

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