茜部村

茜部村（あかなべむら）

茜部村は、明治から昭和にかけて岐阜県稲葉郡に存在した村です。その起源はさらに古く、美濃国厚見郡の一部でした。現在の岐阜市南部にあたる地域であり、かつての村名は「岐阜市茜部○○」として地名に引き継がれています。

村の名前は、古代の地名「尾張国中島郡茜部郷」に由来すると考えられています。一説には、アカネ（茜）という植物の産地であったことが名の由来ともいわれています。この地域は美濃国と尾張国の国境であった木曽川本流の変遷の影響を大きく受けました。古代には木曽川の流路が現在とは異なり、それに伴って国境の変更があったと推測されています。茜部郷は、かつて尾張国に属していましたが、隣接する美濃国厚見郡へ編入されたと考えられています。これに伴い、厚見郡内にあった荘園である厚見荘も茜部荘へと改称されました。

歴史的変遷

この地には古くから人々が暮らしていました。大和朝廷の時代に創建されたとされる比奈守神社（現在の茜部本郷に位置）は、比奈が飛騨または夷を指すともいわれ、大和朝廷の最前線の守護地であった可能性も指摘されています。

荘園としては、美濃国厚見荘が809年に立荘されました。元は桓武天皇の勅旨田でしたが、後に皇女朝原内親王を経て、812年には母である酒人内親王の遺命により東大寺に寄進されています。また、830年には宇佐八幡宮を勧請して茜部神社（現在の茜部寺屋敷に位置し、式内社ともいわれる）が創建されたと伝えられています。

866年の広野川事件の後、尾張国中島郡茜部郷は美濃国厚見郡に編入されたと考えられています。この時期、木曽川の本流は茜部と柳津村の間にあった境川付近を流れていたと推測されています。960年には、東大寺領となっていた厚見荘が茜部荘と改称されました。東大寺は寺領の再建と安定を図るため、国衙からの不当な課役免除や牢籠の停止を求めて太政官牒が発せられています。

11世紀末には、鶉郷に私領を持っていた源国房が茜部荘の荘司となりました。これは、国房の前任者で厚見郡司でもあった人物とその舎弟の勢力を抑えるとともに、国司源義綱の強引な寺領収公に対抗するため、東大寺が義綱と敵対する国房を起用したとの見方もあります。しかし、国房は茜部荘内の一部を自身の私領に組み入れたため、荘務を停止されました。その後、1117年には国房の子である源光国が父の不正を引き継ぎ、茜部荘への押妨（不当な侵害）を行ったため、鳥羽天皇から停止命令が出されています。1141年には、茜部荘の領主である東大寺と、東に隣接する内牧荘の領主である仁和寺大教院との間で、友川の洪水で境界が不明瞭になったことに起因する土地争いが発生しています。

鎌倉時代には、長井時広が茜部荘の地頭に任命され、その子孫が代々この職を務めました。しかし、1334年、後醍醐天皇によって茜部荘の地頭職は廃止され、荘園全体が再び東大寺の一円領となりました。

戦国時代に入ると、この地は戦乱に巻き込まれることが増えました。1495年には、守護土岐氏の家督争いに端を発する船田城の戦いが発生しました。茜部水主町にあった船田城を拠点とする勢力と、加納城の勢力が戦い、船田城が焼き払われました。この戦いでは、茜部本郷の比奈守神社も戦火で焼失しています。さらに1525年にも、土岐氏の守護の座を巡る争いで茜部が再び戦場となりました。

この頃、尾張国の奥田庄出身の奥田秀種が茜部に移住し、土岐氏に仕えました。その子奥田直純は茜部に500貫文の領地を持ち、上茜部城を拠点としていた堀秀房の娘（堀秀重の姉、堀秀政の叔母）と結婚しました。直純は斎藤義龍や織田信長に仕えています。直純の子である奥田政次（後の堀直政）は従兄弟の堀秀政と共に信長に仕え、後に堀姓を賜りました。堀秀政自身も1553年に茜部本郷で生まれたとされ、織田・豊臣両氏に仕え、天下統一に貢献した著名な武将です。

また、1553年、斎藤道三が尾張の聖徳寺で織田信長と会見した後、帰途の茜部で家臣が信長を侮辱したのに対し、道三が信長の将来性を予見する言葉を述べたというエピソードも「信長公記」に記されています。1556年の長良川の戦いの際には、茜部神社が焼失しました。この神社は南北朝時代や戦国時代には川手城、上茜部城、加納城の守護神とされ、土岐氏や斎藤氏の庇護を受けていましたが、焼失後に再建され、その後は織田氏や江戸時代の加納城主の保護を受けることになります。

1586年には木曽川が大洪水を引き起こし、それまで境川付近を流れていた本流が南へ大きく流路を変え、現在の形となりました。

江戸時代、この地域は美濃国厚見郡に属し、加納藩の領地でした。下茜部村の庄屋であった竹内家は、代々大庄屋や大元取組元取といった、藩と村を結ぶ重要な役職を務めています。

近代に入り、1889年（明治22年）に町村制が施行され、茜部村が単独で成立しました。1897年（明治30年）には厚見郡が各務郡、方県郡の一部と合併して稲葉郡となり、茜部村は稲葉郡に属することになりました。そして、1950年（昭和25年）8月20日、茜部村は岐阜市に編入され、その歴史に幕を閉じました。

現在の茜部

茜部村域は現在も岐阜市茜部としてその名を留めています。かつての村立茜部小学校は岐阜市立茜部小学校として存続していますが、厚見村との組合立であった厚茜中学校の茜部教室は現在は廃止されています。

主な旧跡としては、上茜部城跡があります。また、茜部神社や比奈守神社といった歴史ある神社が現在も地域に鎮座しています。この地からは、戦国武将の堀秀政、実業家の正村竹一、哲学者の竹内芳郎、音楽家の見田村千晴など、様々な分野で活躍した著名人も輩出されています。

（岐阜県の廃止市町村一覧なども参照）

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