武徳編年集成

『武徳編年集成』（ぶとくへんねんしゅうせい）は、江戸時代中期、具体的には元文5年（1740年）に幕臣の木村高敦によって編纂された、徳川家康の生涯を詳細に記した伝記です。この書は、単なる歴史の記録にとどまらず、既存の家康に関する記述の誤りを正し、より正確な歴史像を描き出すことを目指しました。

編纂の背景には、当時流布していた家康に関する記述、特に偽書とされるものや、諸家の由緒、軍功に関する誤った情報が少なくなかったという状況があります。木村高敦は、これらの誤りを丹念に洗い出し、史料を精査することで、より信憑性の高い記述を心がけました。その結果、『武徳編年集成』は、単なる伝記ではなく、歴史的考証に基づいた精緻な研究書としての価値も持つことになりました。

本書の特徴の一つとして、具体的な出来事に関する記述の豊富さが挙げられます。例えば、『駿府政事録』や『宮中秘策』にも記録されている、慶長18年（1613年）に徳川家康が花火を見物したという記録も、本書には詳細に引用されています。これは、当時の文化や社会状況を知る上でも貴重な資料となっています。

『武徳編年集成』は、編纂から1年後の寛保元年（1741年）には、時の将軍・徳川吉宗に献上されました。このことは、本書が幕府からもその価値を認められていたことを示しています。また、天明6年（1786年）には全93巻からなる木活字本が出版され、広く読まれることになりました。この天明6年版は、現在も国立国会図書館などに所蔵されており、研究者や歴史愛好家にとって重要な資料となっています。

今日においても、『武徳編年集成』は、徳川家康という人物を知る上で欠かせない文献の一つです。この書を読むことで、家康の生涯だけでなく、当時の政治、文化、社会状況についても深く理解することができます。

さらに、本書は単なる歴史記録に留まらず、歴史研究における姿勢、すなわち、事実を精査し、根拠に基づいた記述をすることの重要性を教えてくれます。現代の歴史研究においても、その姿勢は受け継がれるべきであり、『武徳編年集成』は、その模範となる書であると言えるでしょう。

関連情報として、国文学研究資料館電子資料館で『武徳編年集成』の関連情報を参照することができます。この電子資料館の活用は、より深く本書を理解する手助けとなるでしょう。

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