武智文雄

武智 文雄 - 野球界の名投手

武智文雄（たけち ふみお）は、1926年11月4日に岐阜県稲葉郡前宮村（現：各務原市）に生まれ、2013年7月1日に生涯を閉じた日本のプロ野球選手である。彼は、パシフィック・リーグにおいて初の完全試合を達成した投手としても知られている。プロとしてのキャリアのほかに、コーチや解説者としてもその名を馳せた。特に、元々田中文雄の名前で活動していた彼は、婚後に武智家の婿養子となり、名を改めた。

経歴

武智は、若い頃から野球に情熱を注ぎ、1941年には名門・岐阜商業野球部に加入した。しかし、夏の甲子園が中止となり彼は中退、その後、自ら志願して予科練に入隊することになった。戦後は、大日本土木のノンプロチームに参加し、都市対抗野球大会で連覇に貢献。その後、1950年に新設された近鉄パールスに入団し、契約第1号選手となった。

入団当初はアンダースローの投手であった武智だが、初年度は藤田省三監督の指示によりオーバースローでの投球を強いられ苦しむ。しかし、自己のスタイルに立ち返りアンダースローに転向した結果、11月15日の試合で初勝利を挙げる。下手から放たれる切れの良いシュートは彼の武器であり、弱小チームのエースとして支え続けた。

1954年には26勝を挙げ、最多勝を獲得。翌1955年のシーズン中、武智は大阪球場での試合で、プロ野球史上2人目の完全試合を達成した。完全試合達成後、「調子は素晴らしかった」と振り返り、6回目から意識し始めたことを明かしている。しかし、同年8月30日の試合では、娘が誕生した日にもかかわらず、完封を逃してしまった。

若干36歳で現役を引退した武智は、その後、近鉄の二軍投手コーチとして選手育成に尽力。多くの選手を支え、特に佐々木宏一郎を育成した。佐々木は後に132勝を挙げる投手に成長し、武智から背番号を譲られるなどの深い関係を築いた。退団後は解説者となり、その後、父親の会社である「西陣織産ネクタイ」の社長として事業に励んだ。

エピソード

武智の人生には、野球だけでなく特異なエピソードも多くある。予科練として特攻隊員に選ばれた武智は、零戦や桜花特攻隊として出撃命令を受けたが、すべて出撃直前に作戦が変更になった。また、終戦2か月前には米軍空母を標的とした出撃を経験したものの、悪天候により基地に戻った。

1955年のシーズン中、結婚したばかりの武智は調子を崩し、周囲から野次を飛ばされることもあった。そのため、完全試合を達成した際に残したコメントは非常に印象深い。「結婚してから調子が上がらなかっただけに、嬉しい」という言葉には、彼の苦悩と喜びが凝縮されていた。

このように、武智文雄はプロ野球の歴史に名を刻んだ偉大な投手である。彼の人生、記録、教育的な側面は、多くの人々に影響を与え続けることだろう。彼が達成した完全試合のウイニングボールは、2018年に野球殿堂博物館に寄贈され、今もなお彼の偉業を語り継いでいる。

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