武田清子

武田清子（たけだ きよこ、1917年6月20日 - 2018年4月12日）は、日本の思想史学者であり、国際基督教大学の名誉教授です。本名は長清子といい、経済学者の長幸男氏と結婚しました。

生い立ちと留学

兵庫県で生まれた武田清子は、神戸女学院高等部を卒業後、同大学の英文科に進学しました。1939年には、日米交換留学生としてアメリカのオリヴェット大学に留学し、卒業後、コロンビア大学で2年間学び、その後、ユニオン神学大学院を修了しました。オリヴェット大学からニューヨークへ移るきっかけとなったのは、指導教員のホームズ・ハートショーンが、恩師であるラインホールド・ニーバーを紹介したことでした。ニーバーは、武田の勉学を物心両面から支え、日米開戦後も、彼女がアメリカに滞在できるよう後見人として尽力しました。この留学中に、神学者のニーバーとパウル・ティリッヒに出会ったことが、彼女の思想形成に大きな影響を与え、キリスト教倫理をはじめとする宗教哲学、文化という観点から歴史を捉える思想史を学ぶ契機となりました。

戦後の活動と国際基督教大学

戦後、武田清子は平和な世界を実現するために、思想史の立場から政治や国際関係を考察し、一般の人々が繋がり合う〈民間外交〉の重要性を提唱しました。インドで講演を行った後、来日したネール首相と面会したこともありました。

1952年12月には、インドで開催された第3回World Conference of Christian Youthで、アジアのキリスト教学生たちと交流しました。翌1953年からは国際基督教大学で教鞭を執り、準教授を経て教授に就任しました。戦中の日本とアジアの関係を再考する研究を進め、アジア文化研究所を率いて、日本と中国の民間外交に尽力し、アジア諸国から研究者を招く活動にも積極的に取り組みました。1998年10月24日には、アジア文化研究所40周年を記念する講演会を開催しています。

研究業績と受賞

1961年、「人間観の相剋」で東京大学から文学博士号を授与されました。1978年には、『世界』に連載した「天皇観の相剋」で毎日出版文化賞を受賞しました。また、ラインホルド・ニーバーを紹介し、近代日本のキリスト教徒についての研究も行いました。日米開戦時に交換船で帰国した知識人、いわゆる「船底の4人」の一人であり、鶴見俊輔が創設した思想の科学研究会の初期メンバーでもありました。

1997年には、キリスト教界での長年の貢献が認められ、日本キリスト教文化協会からキリスト教功労者の表彰を受けました。また、「九条科学者の会」の呼びかけ人も務めました。

死去

2018年4月12日、武田清子は老衰のため100歳で亡くなりました。

著作

武田清子は、数多くの著作を残しました。単著としては、『歴史をつくる学生たち』(1947年)、『人間・社会・歴史 ニーバーの人と思想』(1953年)、『日本の教育とキリスト教』(1958年)、『人間観の相剋 : 近代日本の思想とキリスト教』(1959年)、『天皇制思想と教育』(1964年)、『土着と背教 : 伝統的エトスとプロテスタント』(1967年)、『背教者の系譜 : 日本人とキリスト教』(1973年)、『正統と異端の〈あいだ〉 : 日本思想史研究試論』(1976年)、『天皇観の相剋 : 1945年前後』(1978年)、『わたしたちと世界 : 人を知り国を知る』(1983年)、『婦人解放の道標 : 日本思想史にみるその系譜』(1985年)、『日本リベラリズムの稜線』(1987年)、『峻烈なる洞察と寬容 : 内村鑑三をめぐって』(1995年)、『戦後デモクラシーの源流』(1995年)、『私の敬愛する人びと : 考え方と生き方』(1997年)、『未来をきり拓く大学 : 国際基督教大学五十年の理念と軌跡』(2000年)、『植村正久 : その思想史的考察』(2001年)、『湯浅八郎と二十世紀』(2005年)、『出逢い : 人、国、その思想』(2009年)などがあります。また、『光の子と闇の子』など、ラインホールド・ニーバーの著作も翻訳しました。その他、論考や編著も多数あります。

武田清子の生涯は、学問への情熱と平和への強い願いに彩られていました。その思想と業績は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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