武藤鉄城

武藤鉄城：考古学者、民俗学者、そしてスポーツの先駆者

武藤鉄城（1896年-1956年）は、秋田県に生まれ、考古学者、民俗学者、スポーツ指導者として多岐にわたる才能を発揮した人物です。彼の生涯は、学問への飽くなき探究心と、郷土秋田への深い愛着によって彩られています。

青年期とスポーツへの情熱

秋田市豊岩で生まれた鉄城は、秋田県立秋田中学校（現・秋田県立秋田高等学校）時代からスキーに秀で、全国大会で上位入賞を果たすなど、スポーツへの才能を開花させました。その後、慶應義塾大学理財科（経済学部）に進学しますが、5年で中退。兄の影響もあり、考古学への関心を深めていきます。

卒業後、羽後銀行に勤務しながら、橋本平太らと共に秋田運動倶楽部を設立。西洋近代スポーツであるラグビーやホッケー、スキーの普及に尽力し、全県ラ式蹴球大会の開催に貢献しました。しかし、運動具店経営の失敗や兄とのトラブルにより、秋田市を離れ、角館に移住することになります。

角館での研究生活と民俗学への傾倒

角館では、代用教員を務めながら、地元の歴史・文化研究に没頭。深沢多市らと共に「角館史考会」を結成し、地域の歴史や民俗に関する調査・研究を進めます。この頃から、鉄城は「土器を掘る先生」「石器を見つける先生」として知られるようになり、多くの人々から石器や土器を持ち込まれるようになりました。

兄からの告訴で教員を辞職した後も、研究活動を継続。柳田國男や喜田貞吉ら著名な民俗学者と交流を持ち、東北帝国大学奥羽資料調査所で資料収集に励みました。この間、『北家日記』の騰写版刷りの刊行や、『山城の研究』の出版など、精力的に研究成果を発表しています。

妻の死や戦時下の困難を乗り越え、戦後は秋田県立角館中学校（現・秋田県立角館高等学校）の講師を務めるなど教育活動にも携わりました。高井有一の小説『雪の涯の風葬』は、鉄城の生涯をモデルにした作品として知られています。

考古学と民俗学における功績

鉄城は、単なる資料収集にとどまらず、独自の視点と手法で研究を進めました。特に、秋田県内の遺跡発掘調査では、数々の重要な発見と成果を挙げ、考古学界に大きな貢献を果たしました。

例えば、大湯環状列石の発掘調査への参加や、水神社の神鏡の国宝指定に繋がる模写などは、その代表的なものです。また、マタギ部落調査では、地域住民との信頼関係を構築しながら、貴重な民俗資料を収集しました。

さらに、彼は『秋田民俗絵詞』や『秋田マタギ聞書』などの著作を通じて、秋田の豊かな文化を後世に伝えました。これらの功績は、魁文化賞や秋田県体育功労賞の受賞に繋がっています。

資料収集への徹底した姿勢

鉄城の資料収集への姿勢は、並々ならぬものでした。彼は、旧家の土蔵に眠る貴重な史料を、人柄と持ち前の話術で持ち主を説得し、多くの資料を収集しました。戸沢氏の系図に関する資料も、その代表例です。排他的なマタギ部落の調査においても、地域の人々と溶け込みながら、研究を継続するなど、類まれな調査能力と人間性を備えていました。

まとめ

武藤鉄城は、考古学者、民俗学者、スポーツ指導者として、多様な分野で活躍した稀有な人物です。彼の研究活動は、秋田の歴史と文化の解明に大きく貢献し、その功績は現代においても高く評価されています。彼の生涯は、学問への情熱、郷土愛、そして人々との繋がりを大切にした、真の研究者の生き様を示しています。

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