歪曲収差

歪曲収差：写真レンズの歪みとその原因

歪曲収差とは、光学レンズにおける収差の一種で、被写体の形状が実際とは異なる形で撮影される現象です。正確には、レンズを通過した光線が理想的な位置に結像せず、歪んだ像を作ることで発生します。球面収差、非点収差、コマ収差、像面湾曲と並んで、ザイデル収差の5大収差の一つに数えられます。

歪曲収差は、主に次の2種類に分類されます。

樽型歪曲: 画像の中央部が膨張し、矩形が樽のような形に歪む収差。広角レンズで発生しやすい傾向があります。
糸巻き型歪曲: 画像の中央部が収縮し、矩形が糸巻きのような形に歪む収差。望遠レンズで発生しやすい傾向があります。

これらの他に、中心部と周辺部で樽型と糸巻き型が混在する複雑な歪み方をする場合もあります。

歪曲収差が発生しやすい状況

歪曲収差は、レンズの設計、絞りの位置、レンズの種類などによって発生しやすさが大きく異なります。

レンズ設計: 望遠レンズや逆望遠レンズのように、片側のレンズ面を強く凸状、反対側を凹状にした非対称なレンズ構成では、歪曲収差が発生しやすい傾向があります。一方、ダブルガウス型のように前群と後群が対称的なレンズ設計では、歪曲収差は抑制されます。
絞りの位置: レンズの絞りが適切な位置に配置されていない場合、絞り込むことで歪曲収差が発生することがあります。ただし、一般的に市販の写真用レンズではこのような問題はほとんどありません。
レンズの種類: ズームレンズでは、焦点距離によって歪曲収差の特性が変化します。広角側では樽型歪曲、望遠側では糸巻き型歪曲が顕著になる場合があります。
反射望遠鏡: 反射望遠鏡では歪曲収差を完全に除去することは非常に困難です。しかし、反射望遠鏡は一般的に実視野が狭いため、歪曲収差の影響はそれほど問題になりません。

歪曲収差の影響

歪曲収差は、特に書類の撮影や、直線的な形状の建物（モダン様式のビルディングなど）の撮影において、画像の不自然さとして目立ちます。天体写真においては、星々の位置測定の精度に影響を与えるため、コマ収差と並んで重要な問題となります。

歪曲収差の対策

歪曲収差は、レンズ設計や画像処理によって軽減または補正することができます。

レンズ設計: 歪曲収差を最小限に抑える設計のレンズを使用する。
画像処理: 画像処理ソフトを用いて、歪みを補正する。多くのソフトウェアで、樽型や糸巻き型の歪みを補正する機能が搭載されています。

完全に歪曲収差を除去するためには、光学系の設計段階で、結像条件（オルソスコピー）を満たす必要があります。オルソスコピーとは、すべての光線が理想的な位置に結像する状態を指します。接眼レンズの一種である「オルソスコピック」は、この原理に基づいて設計されています。

魚眼レンズ

魚眼レンズは、極端な樽型歪曲収差を意図的に利用したレンズです。広大な範囲を捉えることができるため、風景写真などで活用されます。

歪曲収差は、レンズ設計や撮影状況によって発生する光学的な現象であり、その理解は高画質の撮影において重要です。

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