歴史 (ポリュビオス)

『歴史』（ギリシア語原題：Ἰστορίαι）は、紀元前2世紀頃に古代ギリシアの政治家であり歴史家であったポリュビオスによって編纂された、ローマの急速な勢力拡大の過程を詳細に記述した歴史書である。

ポリュビオスはギリシアの有力な家柄に生まれたが、ローマとの対立の中で捕らえられ、ローマへ送られた。この抑留期間中に、彼はローマが驚異的なスピードで地中海世界の覇権を握るに至った歴史的背景に深い関心を抱くようになる。彼は最終的に罪を問われることなく故郷へ帰ることを許されるが、その間に築いたローマの有力者、特にスキピオ家との親交を通じて、ローマの内情や軍事行動にも詳しくなり、カルタゴの滅亡という歴史的な瞬間に立ち会う経験も得ている。

この著作は元々、第三次マケドニア戦争終結までを扱う29巻構成として計画されていた。しかし、その後の第三次ポエニ戦争、地中海世界の統合、イベリア半島やアカイア同盟での反乱、そして紀元前146年のコリントス陥落といった出来事が追加され、最終的には全40巻という大規模な歴史書となった。残念ながら、本書の大部分は失われており、現在まとまった形で残っているのは最初の5巻のみである。それ以外の巻の内容は、後世の学者による引用やポリュビオス自身が作成した要約などを通じて断片的に知られているに過ぎない。

『歴史』の最大の特色は、単なる史実の羅列に終わらず、ポリュビオス独自の歴史観である「政体循環史観」（アナキュクローシス）を詳細に論じている点にある。彼は、いかなる政治体制も王政、貴族政、寡頭政、民主政、衆愚政といった形態を必然的に循環すると考えた。例えば、民主政においては、自由や平等が当たり前になった孫の世代は、それらの価値を軽視し、放縦に走り、最終的に暴力的な支配へと逆戻りするという過程を説明している。ポリュビオスはこの理論に基づき、当時のローマの隆盛も永遠ではなく、自然の成長がやがて自然の衰退へと向かうサイクルの一部であると見通し、その法則性を歴史の中に明らかにしようと試みたのである。彼のこの政治哲学は、その後の歴史観にも大きな影響を与えた。

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