死せる鳥

『死せる鳥』

フランシスコ・デ・ゴヤが1808年から1812年に制作した静物画『死せる鳥』は、スペインのロマン主義を代表する作品として知られています。この油彩作品は、現在マドリードのプラド美術館に所蔵されています。1812年に作成されたゴヤ家の財産目録に記載された12点の連作ボデゴンの一つであり、テーブルの上に置かれた死んだ鳥が描かれています。

作品の内容

この絵には、異なる色の羽毛を持つ5羽のニワトリが登場します。これらのニワトリはいずれも既に命を失っています。羽色は多様であり、白、茶、黒といった種類が中央に無造作に積み重ねられています。右後方には籐で編まれた籠が描かれており、その上部は布で覆われています。布には、配送ラベルが縫いつけられており、中身は不明ですが、誰かに送られる予定であることを示唆しています。全体的に豊かで温かみのある色調が特徴的で、ニワトリの死体に照らされる光が、作品に劇的な雰囲気を与えています。

この絵画の制作時期は、ちょうどスペインがフランスと戦った半島戦争（1808-1814）の真っ只中です。ゴヤは数多くの作品を残していますが、静物画を描いたのはこの期間のみであり、そのテーマが戦争の影響を反映していることは明白です。ニワトリの死は、戦争で目撃された多くの死や暴力を想起させるものであり、これらの静物画は「ヴァニタス」としての性格を持ち、戦争の犠牲者についての言及が意図されていると考えられます。特に多くの遺体が埋葬されずに放置されていた当時の状況が、作品に影を落としています。

また、この静物画は、ゴヤが制作した版画集『戦争の惨禍』（Los desastres de la guerra）との類似性も示しています。その特性から、多くの美術史家がこの作品を同じ文脈に位置づけています。特に第22番「これではすまない」（Tanto y mas）との関連性が指摘されています。これらの静物画は形式的な特徴を共有しており、連作全体に統一感を与えています。

来歴

『死せる鳥』は、1812年にゴヤの妻ホセファ・バイユーの死後に作成された財産目録に、12点の連作の一部として記載されました。この連作は、ゴヤの一人息子であるハビエルに相続された後、さらに彼の息子マリアーノの妻であるマリア・デ・ラ・コンセプシオンの父であるフランシスコ・ハビエル・デ・マリアテギに売却されました。彼の死後、連作は彼の娘に遺贈された。1846年には、マリアーノがユムリ伯爵からの融資の担保として連作を預けましたが、返済できずに1851年に伯爵に譲渡されました。ユムリ伯爵が1865年に亡くなった際、その後の財産目録には、彼の別邸のダイニングルームを彩る作品として記載されました。その後、連作は家族に相続されましたが、分散されてしまいました。その後、絵画は複数の所有者を経て、最終的には1900年にスペイン開発省がプラド美術館のために購入しました。

まとめ

『死せる鳥』は、作品の背後にある歴史的な背景とゴヤの芸術的な視点を浮かび上がらせる重要な静物画です。彼の作品は、単なる美の追求に留まらず、時代の苦悩や戦争の悲劇を映し出しており、今なお多くの人に深い印象を与え続けています。

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