死神姫の再婚

死神姫の再婚とは

『死神姫の再婚』は、小野上明夜氏によって著された日本のライトノベルシリーズです。イラストは、初期は岸田メル氏が、のちに冨士原良氏が担当しました。B's-LOG文庫（現ビーズログ文庫）より、2007年9月から2016年9月にかけて全22巻が刊行されています。

本作は第9回エンターブレインえんため大賞ガールズノベル部門で奨励賞を受賞しており、2013年2月時点で累計販売部数55万部を達成しています。その人気から、ドラマCD化、コミカライズ、舞台化といったメディアミックスも展開されました。

あらすじ

物語の主人公は、没落した地方伯爵家出身の娘、アリシア・フェイトリンです。叔父の計らいで、家名を利用したい新興貴族のもとへ嫁ぎますが、結婚式の最中に新郎が急死するという悲劇に見舞われます。この出来事から、アリシアは「死神姫」という不吉な異名で呼ばれるようになります。

一年後、再び叔父の提案で持ち上がった再婚相手は、恐れられる新興貴族「強公爵」ことカシュヴァーン・ライセンでした。彼は暴君と噂される人物です。再婚のため、カシュヴァーンの治めるアズベルグ地方の屋敷へ向かったアリシアを待っていたのは、不気味な装飾が施された屋敷と、自身を公爵の愛人と称するメイドでした。さらに、初めて対面したカシュヴァーンは、アリシアに対し「あなたの名を金で買った」と冷たく言い放ちます。

しかし、アリシアは周囲の予想に反し、萎縮するどころか満面の笑みで「お買い上げありがとうございます！」と応じます。この天真爛漫とも言えるアリシアの反応から、二人の特異な夫婦生活が幕を開けるのです。

当初は家名と異名の利用を目的とした政略結婚でしたが、共に過ごす日々の中で互いを知り、やがて本物の愛情を育んでいきます。アリシアは貧困生活からくる現実的な価値観を持ち、カシュヴァーンはその合理的な姿勢に惹かれます。一方、カシュヴァーンは暴君としての顔を持ちながらも、アリシアへの深い愛情を示すようになり、物語は二人の関係を中心に、周囲の様々な人物や出来事を交えながら展開していきます。

主な登場人物

アリシア・ライセン: 本作の主人公。「死神姫」の異名とは裏腹に、地味で平凡な容姿の少女。家事全般や家庭菜園を得意とするなど、貧困時代の経験から培われた能力が高い。現金で現実的な性格だが、読書好きで特に恐怖小説を好むため、不気味なものを愛でる一面もある。幼少期の経験から毒に耐性があり、感情に蓋をする癖がある。視力も悪い。当初は政略結婚と割り切っていたが、次第にカシュヴァーンを愛するようになる。
カシュヴァーン・ライセン: アズベルグ地方の領主で「強公爵」。暴君と恐れられるが、実際は苦労人。合理的で、宗教、特に国教「翼の祈り」に強い敵意を持つ。アリシアとの結婚は家名と「死神姫」の異名を利用するためだったが、彼女の予想外の反応に惹かれ、やがて深く愛するようになる。父親の過去に縛られる一面もあったが、アリシアとの絆によって変化していく。
ノーラ・テルペス: ライセン家のメイド。カシュヴァーンの愛人を自称し、アリシアから正妻の座を奪おうと目論むが、ほとんど相手にされない。針子としての腕は確か。貧乏を嫌い、ティルナードに好意を抱く。
トレイス: カシュヴァーンの幼馴染であり、後に執事兼右腕となる。かつて聖職者を目指したほど精神的に清らかだが、潔癖症。カシュヴァーンがアリシアといちゃつく様子を見ては「破廉恥」と騒ぐ一方、二人の幸せを願っている。
ルアーク: 「死神」の異名を持つ凄腕の暗殺者。アリシアの最初の夫を殺害した人物。飄々とした性格だが、アリシアの言動に動揺することも。後にアリシアとカシュヴァーンの養子となる。
ティルナード・レイデン: レイデン地方の地方伯。幼少期の経験から火が苦手。最初は甘えん坊だったが、様々な事件を経て成長していく。後にノーラと惹かれあい婚約する。

他にも、時計公爵と呼ばれる元地方伯のディネロ、非の打ち所のない美貌を持つオーデル地方の地方伯ジスカルド、その妻で元王女のエルティーナ、隠された王子ゼオルディス、教団の聖女クロエや聖職者ユーランなど、多くの魅力的な人物が登場し、物語を彩ります。

世界観と用語

物語の舞台は、シルディーン王国とその周辺地域です。王国は「翼の祈り」という宗教が国教として信仰されています。死後、「至高き国」へ飛ぶための翼が与えられるという教えがあり、水での死は忌み嫌われています。かつて聖女アーシェルを支持した者が貴族に、迫害した者が平民になったという伝承が身分制度の基礎となっています。

死神姫: アリシアが最初の夫の死により付けられた異名。様々な尾ひれがついて伝説化しているが、本人はいたって普通。
地方伯: 聖女アーシェルの末裔とされる由緒正しい貴族。各地方の名を冠するが、近年は没落した家もある。
新興貴族: 近年の下克上で台頭した貴族や元平民。「翼の祈り」の時代より後に生まれ、金で地位を得た者もいるため、旧貴族から蔑視されることもある。
ラグラドール: シルディーンの隣国。国民は褐色の肌で、傭兵稼業を生業とすることが多い。「灰色」はシルディーン人とラグラドール人の混血を指し、差別される存在。
肥料いらず: アズベルグやフェイトリンに自生する猛毒の植物。
玩具の兵隊（翼の護り）: 王国と教団がラグラドール人傭兵に対抗するために育成した精鋭部隊。機密保持のため多くの兵士が殺された。

物語は、シルディーン王国の政変や「翼の祈り」教団内部の権力闘争、そして登場人物たちの過去や複雑な人間関係が絡み合いながら進行します。

メディアミックス

ドラマCD: 2009年に発売。アリシア役を小林ゆう氏、カシュヴァーン役を杉田智和氏が担当しました。
コミカライズ: 『コミックビーズログ キュン!』にて冨士原良氏作画版が、後に『花とゆめONLINE』にて夏目コウ氏作画版がそれぞれ連載され、単行本が刊行されています。
* 舞台: 2013年3月に全労済ホールスペース・ゼロにて上演。姫崎愛未氏（LinQ）がアリシア役、太田基裕氏がカシュヴァーン役を務めました。

これらの展開を通じて、『死神姫の再婚』は多くの読者に愛されるファンを獲得した人気シリーズです。

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