殺人狂時代 (1967年の映画)

1967年、東宝映画『殺人狂時代』秘話：公開からカルト的人気まで

1967年、東宝は異例の映画を世に放った。『殺人狂時代』である。この作品は、公開に至るまでの経緯、そしてその後の人気を知る上で、多くの興味深い点を含んでいる。

日活から東宝へ、そしてお蔵入り

『殺人狂時代』は当初、日活で映画化が企画されていた。しかし、様々な事情により企画は頓挫。その後、東宝が権利を取得し、日活のシナリオを基に、岡本喜八監督が手直しを加え、1966年に完成した。ところが、東宝上層部の判断により、公開直前にまさかの“お蔵入り”の憂き目に遭う。

翌1967年、宣伝もほとんどないままひっそりと公開されたものの、その時期は映画館の客足が最も遠のく2月。さらに、併映作品も集客が見込めないドキュメンタリー映画だったことから、興行成績は東宝史上最悪を記録。岡本監督も大きな落胆を味わったと伝えられている。

カルト的人気と放送上の問題

しかし、『殺人狂時代』は1980年代のリバイバル上映で再評価を受け、現在に至るまでカルト映画として根強い人気を誇る。その一方で、作品中には現在では放送禁止用語とされている言葉が使用されているため、テレビでの放送はほとんどされていない。WOWOWでの放送時には、問題の言葉は消音処理された。

原作との違いと独特の世界観

原作小説との間には、桔梗という主人公の設定や物語後半の展開、そして溝呂木という重要人物の描写に違いが見られる。映画版では、原作以上に溝呂木の存在感が増幅されている。

映画は、ド近眼でマザコン気質の桔梗が、偶然を装って敵を倒していく様、そして奇抜な方法で次々と自滅していく殺し屋たちの姿を通して、独特の喜劇的な展開を見せている。ブラックユーモアと、テンポの良いストーリー展開、そして殺しの場面に明るいカンツォーネを流すなど、ロマンティック・スリラーとも呼べる異様な雰囲気を醸し出している。

なお、原作は1980年代にNHK名古屋でラジオドラマ化もされている。このラジオドラマは映画よりも原作に忠実な内容となっており、殺し屋たちが名古屋弁で話す一方、桔梗は映画よりも颯爽とした人物として描かれているという。

ストーリー：精神病院と秘密結社、そしてクレオパトラの涙

精神病院を経営する溝呂木省吾のもとに、ナチス時代の同志であるブルッケンマイヤーが現れる。ブルッケンマイヤーは、溝呂木が率いる「大日本人口調節審議会」に、ある仕事を依頼しようとしていた。この「審議会」は、人口調節の名の下、不要と判断された人間を秘密裏に殺害することを目的とした組織であり、溝呂木は入院患者たちを殺人狂の殺し屋に仕立て上げていたのだ。

ブルッケンマイヤーは仕事依頼のテストとして、電話帳から無作為に選ばれた3人の殺害を要求。その1人に選ばれたのが、犯罪心理学の大学講師である桔梗信治だった。桔梗は自宅で「審議会」の刺客に襲われるが、偶然にも刺客を殺してしまう。警察に通報するものの、現場に戻ると遺体は消えていた。

桔梗は、ミステリー記者の鶴巻啓子、車泥棒の大友ビルと共に、「審議会」の刺客たちと対決することになる。一方、ブルッケンマイヤーの言動を不審に思った溝呂木は彼を拷問し、真の目的が桔梗一人にあること、そして、その裏には大戦中に紛失したダイヤモンド「クレオパトラの涙」が絡んでいることを突き止める。

幸運にも刺客たちを次々と倒していく桔梗だが、啓子が溝呂木に捕らわれてしまう。啓子を救出するため、桔梗とビルは命懸けの戦いに挑む。そして、ついに桔梗の前に溝呂木が現れ、驚くべき事実が明かされる。それは、桔梗が8歳の時に少年使節としてナチス支配下のドイツへ渡り、負傷した肩にダイヤモンドが縫い込まれていたという事実だった。

啓子が捕らえられた病院に向かった桔梗は、溝呂木との一騎打ちに臨む。

スタッフとキャスト

豪華スタッフ・キャスト陣も、『殺人狂時代』の魅力を高めている。監督は岡本喜八、出演は仲代達矢、団令子、天本英世など、日本の映画史に名を刻んだ面々が名を連ねている。

『殺人狂時代』は、その異様な展開と、予想外の結末、そして独特の世界観で、今もなお多くの映画ファンを魅了し続けている稀有な作品と言えるだろう。

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