殿 (軍事用語)

殿（しんがり）について

「殿」とは、後退する部隊において最後尾を担当する役割を指します。これには「後備え」や「殿軍」という別名もあります。この言葉は元々は「臀（しり）」を指す語が転じて、戦闘における重要な役割として使われるようになりました。

兵法における殿

兵法において、殿の役割を果たすことは極めて危険です。後退行動をする本隊が敵の追撃を受ける際、殿はその後方を守り、後退を助ける役目を担います。この任務は敵の攻撃を防ぐ必要があり、支援を受けられないため、限られた戦力で耐えなければなりません。古くからこの役割は、武勇や人間性に優れた武将が受け持つ重要な役目と見なされています。

歴史的な例

天文12年（1543年）、大内義隆が尼子晴久を攻めた際、撤退する大内軍の殿を毛利元就とその子隆元が務めました。しかし、追撃を受けて壊滅的な打撃を受け、元就たちは自害を覚悟するほどの窮地に陥ります。その時、毛利家臣の渡辺通が元就の身代わりとなり、少数で敵に立ち向かい、元就父子は何とか脱出に成功しました。これが如何に殿が危険な任務であったかを示しています。

別の例として、元亀元年（1570年）に日独での金ヶ崎の戦いがあります。織田信長が孤立した際、木下藤吉郎が殿の役割を引き受け、信長を逃がすことに成功しました。この事件は藤吉郎の評価を大きく変えるきっかけとなりました。ただし、最近の調査によると、この場面で実際に殿軍を指揮したのは池田勝正だったことが判明しています。

さらに、天正13年（1586年）の人取橋の戦いでは、伊達軍の政宗を逃がすため、73歳の鬼庭良直が殿となり、追っ手を食い止めました。この戦闘では日没も幸いし、伊達軍は壊滅を免れることができました。

兵法以外での用法

「殿」が使用される場面は戦闘だけに留まりません。特にスポーツの場面、特に競馬では「殿（シンガリ）」として知られています。この用語は競走馬のレース中の位置を示し、最後方にいることを意味します。競馬では、最下位であることを示す「シンガリ負け」や、最後方から追い込む「殿一気」といった表現でも使われています。また、行進や隊列を組む場で最後尾を行進する人物に対しても「殿を務めている」と表現されることがあります。

総括

このように、「殿」という言葉は戦闘の場における重要な役割から転じて、さまざまな場面で使われるようになりました。それは古より培われた勇気や智慧を象徴する存在となっています。部隊における最後尾、あるいはスポーツにおける後方の位置付けが、時代を超えてどのように利用され続けているのかを理解することは、日本の文化や歴史を知る上で重要なことです。

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