母系制

母系制：母方の血筋を重んじる社会システム

母系制とは、親子関係や血縁集団を母方の血筋を基準として構成する社会制度です。動物社会、特にシャチなどに見られるほか、歴史上、様々な地域の人間社会にも存在していました。

母系制の特徴

母系制社会では、一般的に以下の特徴が見られます。

母系氏族名継承: 子は母方の氏族名・姓を継承します。
母系位階継承: 娘が母方の社会的地位や権威を継承します。
母系相続: 娘が母方の財産を相続します。
母方居住: 結婚後、夫婦は妻方の共同体に居住します、もしくは別居します。

重要なのは、母系制は継承や相続が母方の血縁に基づくことを指し、女性が必ずしも支配的な立場にあることを意味するわけではない点です。政治的な権力は、母の兄弟や長女の夫など、男性が握るケースが多々あります。

姓の継承においては、父系の要素が混ざり合うこともあります。氏族名は母系を継承するものの、出自に父系の姓を含む場合があります。古代の氏族社会では、権威を高めるため、皇室や有力豪族の血筋を自称する例が多く見られ、系図には多くの祖先が記されている（多祖現象）のはこのためです。古代エジプトのファラオの継承制度も、母系制と類似した側面を持っていました。

母権制との違い

母系制と混同されやすいのが母権制です。母権制は、母系制を尊重し、女性が家長や首長などの地位を優先的に占める社会制度を指します。

J・J・バッハオーフェンが1861年の『母権制論』で提唱した概念ですが、20世紀以降は、その根拠の脆弱さや母系制との混同、科学的批判から、人類発展史における一段階という見方は否定されています。

しかし、母権制論が完全に否定されたわけではありません。エマニュエル・トッドは、父系制社会の人間が、双系制社会を女権支配的と誤解する傾向を指摘し、古いシステムの方が女性の地位が高かったという考えには一定の妥当性があると主張しています。

現代社会における母系制

現代社会においても、母系制の名残や独自の形態を持つ社会は存在します。

イロコイ連邦: 首長の任免権において女性が優位な立場にありました（首長自身は男性）。
ワイアンドット族: 女性が男性首長の任免権を握っていました。
モソ人(中国雲南省): 財産と血統は母系で継承され、女家長が家計を管理します。男性は、葬儀の準備など、不浄な役割を担います。
カーシ人(インド・メーガーラヤ州): 母系制の妻方居住婚で、末の娘が最大の財産を相続します。近年、男性による家父長制導入の動きがありますが、勢力は弱いです。
ミナンカバウ人(インドネシア): 母系制の妻方居住婚で、女性が財産を相続し、伝統儀式や資源管理において実権を握っています。
ビジャゴ諸島(ギニアビサウ): 女性が社会の様々な分野において優位に立ち、男性は「義務から解放された年少者」として扱われます。

これらの例は、母系制が必ずしも単一的な形態をとるものではなく、地域や文化によって多様な様相を示すことを示しています。母系制は、歴史と社会の複雑な相互作用によって形作られてきた社会制度であり、現代においてもその影響を様々な形で垣間見ることができます。

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