毎月抄

『毎月抄』（まいげつしょう）は、1219年（承久元年）に歌人藤原定家によって著されたとされる歌論書です。ただし、この書が定家自身の真作であるか、あるいは後世の仮託であるかについては、現在も論争が続いています。

概要

書名の由来は、冒頭の「毎月の御百首、能々拝見せしめ候ぬ」という書き出しに拠ります。また、『和歌底訓』や『定家卿消息』といった別名も存在しますが、これらは原題ではないと考えられています。本書は、毎月定家の元へ百首の和歌を送る人物に対する「返報」という形式で展開され、大量の和歌を詠むことを通じた稽古修道論が強調されています。この点から、毎月「百首」もの和歌を詠むという修練を前提とする『毎月抄』は、藤原為家以降の和歌の世界を基盤としていると考えられています。

『毎月抄』という名称が初めて登場したのは、頓阿の『井蛙抄』でした。このことから、中世には一定程度流布していたことがうかがえます。実際、『毎月抄』には複数の伝本系統が存在しています。

論旨

本書では、十体、有心体、心と詞の関係、秀逸体、本歌取りや題詠の方法、歌病と詞の用捨など、多岐にわたる歌論が展開されています。また、歌の修行や稽古における心得も述べられており、定家の歌論書の中でも最も充実した内容を持つとされています。

特に、『毎月抄』の中心を成すのは有心体論と秀逸体論です。その他の部分は、『近代秀歌』や『詠歌大概』で説かれた技術論とほぼ同じ内容です。

本書で定家が提唱した十体とは、以下の通りです。

至高の体（有心躰）: 歌の理想とされる、最高位の境地を示す体。
崇高への志向性が感じられる（幽玄躰）: 奥深く、趣のある美しさを感じさせる体。
意味内容が納得でき、確かさが感じられる（事可然躰）: 理にかなっており、納得できる内容を持つ体。
表現に均整や調和などの整った感じがする（麗躰）: 美しく、整った印象を与える体。
声調の緊張を保ち、流麗感が強い（長高躰）: リズムが心地よく、滑らかな印象を与える体。
視覚的な描写が目立つ（見躰）: 目に見える情景を鮮やかに描写する体。
題に基づく趣向が知的で巧みに行われている（面白躰）: 知的な面白さを感じさせる体。
着想の珍しさが目立つ（有一躰）: ユニークな発想や着想が際立つ体。
複雑な修辞技巧によって情趣美を濃厚にする（濃躰）: 技巧を凝らし、深い趣を表現する体。
意味内容や詞使いに強さや恐ろしさが感じられる（鬼拉躰）: 力強く、迫力のある印象を与える体。

これらの十体は、歌の表現における様々な可能性を示唆しており、後世の歌論に大きな影響を与えました。

『毎月抄』は、単なる技術論に留まらず、歌の精神性や修行の重要性を説いた、重要な歌論書と言えるでしょう。

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