毒島ゆり子のせきらら日記

2016年4月から6月にかけて、TBS系の深夜ドラマ枠「テッペン!」内の「水ドラ!!」として放送された連続テレビドラマが『毒島ゆり子のせきらら日記』です。本作は脚本家・矢島弘一が初めて連続ドラマの脚本を手掛けた作品であり、その卓越した筆致は高く評価され、第35回向田邦子賞を受賞しました。

このドラマは「深夜の昼ドラ」というユニークなコンセプトのもと、人間の根源的なテーマである「恋愛」と「政治」を軸に物語が展開します。主人公の女性記者が経験する壮絶な恋愛模様と、彼女が仕事で関わる政治の世界における権力闘争や裏切りが並行して描かれ、両者が深く関連付けられています。

主人公は、あけぼの新聞の政治部記者である毒島ゆり子（演: 前田敦子）。25歳の彼女は、大物政治家の番記者として忙しく立ち回る一方で、私生活では極めて奔放な恋愛観を持っています。彼女は常に複数の恋人を作ることで心の安定を図っており、特に「彼氏を2人作る」という独自のルールを頑なに守っています。これは、幼少期に父親から受けた裏切りの経験から男性不信に陥ったことが原因であり、「どちらかに裏切られても、もう一方が愛してくれる」という形で自己防衛をしているのです。ゆり子にとって、恋愛とは常に「愛と裏切り」が表裏一体となった極めて不安定なものです。しかし、彼女は「二股はかけても不倫はしない」という自分なりの一線を設けていました。

物語は、そんなゆり子がライバル紙「共和新聞」のエース記者、小津翔太（演: 新井浩文）と出会ったことから大きく動き始めます。既婚者である小津との出会いは、ゆり子がこれまで守ってきたルールを打ち破り、危険な不倫関係へと発展していきます。長年同棲していたミュージシャンの幅美登里（演: 渡辺大知）、そして新しい彼氏として関係を持ったスポーツインストラクターの野村新太郎（演: 八木将康）との関係を清算し、小津ただ一人を信じて生きていこうと決意したゆり子でしたが、彼女の人生は思わぬ方向へと向かっていきます。

ゆり子の仕事である政治記者としての側面も重要な要素です。彼女は担当する大物政治家・黒田田助（演: 片岡鶴太郎）が権力争いの中で裏切られていく様を間近で目撃し、政治の世界もまた自身の恋愛観と同様に「愛と裏切り」が渦巻く世界であることを痛感します。元政治部記者であったプロデューサーの橋本梓が企画段階から関わっており、政治描写にも一定のリアリティが追求されています。

主人公を取り巻く個性豊かな登場人物たちもドラマの魅力を高めています。ゆり子の複雑な心情を理解する親友、桑原ナナミ（演: 中村静香）や木田育男（演: 諸見里大介）。新聞社の同僚記者たち。そして、ゆり子が行きつけの喫茶店のマスター豊三郎（演: 友川カズキ）などが、ゆり子の「せきららな」日常を見守ります。

音楽面では、主演を務める前田敦子が2年ぶりに発表した新曲「Selfish」が主題歌に起用されました。「自己中心的」「わがまま」といったタイトルや歌詞は、主人公ゆり子のキャラクターと強く結びついており、ドラマの世界観を効果的に表現しています。また、幅美登里役の渡辺大知がボーカルを務めるバンド、黒猫チェルシーの楽曲「抱きしめさせて」が劇中歌として使用され、ドラマのために書き下ろされたこの曲も物語に彩りを添えています。

本作は脚本を担当した矢島弘一が、初連続ドラマ脚本にして権威ある向田邦子賞を受賞したことが大きな話題となりました。選考委員からは満場一致で「ぶっちぎりの一等賞」と絶賛され、特に、政治の世界を適度なリアリティをもって描いた点や、現代に生きる若い女性が抱えるアイロニーに満ちた生き方、赤裸々な恋愛観、仕事における葛藤などを的確かつ丁寧に描き出した点が評価されました。

『毒島ゆり子のせきらら日記』は、単なる恋愛ドラマや政治ドラマの枠を超え、現代女性の複雑な内面や社会的な立ち位置を鋭く、そして赤裸々に描き出した作品として、高い評価を得ています。

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