毒茶事件

毒茶事件（どくちゃじけん）

毒茶事件は、1898年に発生した重大な暗殺未遂事件であり、当時の大韓帝国の皇帝である高宗が狙われた。この事件は、金鴻陸という人物が毒入りのコーヒーで皇帝を暗殺しようとしたことから発覚し、その後、金鴻陸は死刑にされることとなった。高宗・皇太子暗殺未遂事件や茶毒事件とも呼ばれる。

背景

1897年の10月、高宗は国号を「大韓」と改めたが、その前年の9月にはロシア帝国が駐韓公使を交代させるなど、韓国の政局は不安定であった。新たに赴任したシュペイエル公使は、朝鮮の財政権を掌握しようと暴走し、韓国政府との間でさまざまな摩擦を引き起こした。これに対し、日本やイギリスは強く反発し、韓国国内では排露派が台頭した。

独立協会を中心に、韓国市民は政府に対してロシアからの独立を訴える活動を本格化させた。彼らは、政治的自由や独立を求め、万民共同会という大衆集会も開催するなど、国を動かす力を持つに至った。このような情勢の中で毒茶事件が発生した。

事件の経過

毒茶事件の中心人物である金鴻陸は、流刑にされている親ロシア派の通訳官であった。彼は高宗に信任されていたが、流刑を受けたことで高宗に対する復讐心を抱くようになった。1898年の誕生日に毒殺を依頼し、コーヒーに毒を盛る計画を実行に移す。

事件は9月11日の晩に発生した。高宗と皇太子がコーヒーを飲むと、突然の吐き気や意識を失う事態になった。偶然、高宗は普段と違う匂いに気づき、少量しか飲まなかったが、皇太子は多くを飲んでしまい、後に知能障害を引き起こすことになった。この他にも内侍や女官が同様の中毒症状に苦しむこととなった。

事件発覚後、韓国政府は直ちに調査を開始し、結果的に金鴻陸の関与が明らかになった。彼は、コーヒーに加えられた毒物がアヘンまたはヒ素であると自白し、その背後にいた孔昌徳と金鍾和も逮捕される。これにより、金鴻陸たちは最終的に絞首刑にされる運命となった。

事件の影響

事件は韓国社会に大きな波紋を呼び、政府に対する批判が強まった。独立協会を通じて高宗政権への反発が高まり、国民の民主的な権利を訴える声が後押しされた。高宗の政治権力に対する不信感と国への過度な外力依存が、このような暴力的な事件を引き起こしたという見解が広がった。

皇太子の後遺症

事件後、皇太子は重篤な状態に陥り、知能障害を抱えることになった。このことは、後の大韓帝国内部の力関係、さらには日本に対する態度にも影響を及ぼす。1907年のハーグ密使事件後、高宗は退位を余儀なくされ、皇太子は純宗として即位したが、彼の即位は高宗の政治姿勢とは異なり、日本に従順なものとなった。

このように、毒茶事件は単なる暗殺未遂の域を超え、韓国の歴史の中に重要な位置を占める事件となった。

もう一度検索