比吸収率

比吸収率（SAR）とは

比吸収率（SAR：Specific Absorption Rate）とは、人体が電磁波にさらされた際に、単位質量あたりに吸収されるエネルギー量を示す指標です。主に無線周波数（RF）の電磁界（電磁波）に対して用いられますが、超音波などの他のエネルギー形態にも適用されることがあります。SARの単位はワット毎キログラム（W/kg）で表されます。

SARは、全身または一部の組織サンプル（通常1gまたは10g）で平均化して測定されます。測定値は、対象となる体積または質量における最大レベルを示します。

SARの測定方法

SARは、組織内の電界から以下の式で計算できます。

math
{\displaystyle {\text{SAR}}={\frac {1}{V}}\int _{\textrm {sample}}{\frac {\sigma (\mathbf {r} )|\mathbf {E} (\mathbf {r} )|^{2}}{\rho (\mathbf {r} )}}d\mathbf {r} }


ここで、

σ: サンプルの導電率
E: 電界の二乗平均平方根
ρ: サンプルの密度
V: サンプルの体積

SARは、100kHz〜10GHzの範囲の電界への曝露を測定するために使用され、携帯電話やMRIスキャンにおける電力吸収の測定に利用されます。SARの値は、電磁的エネルギーにさらされる身体部分の形状や、電波源の位置と形状に大きく依存するため、測定は電波源の種類ごと、かつ意図された使用位置で行う必要があります。

携帯電話のSAR測定

携帯電話のSARを測定する際は、人間の頭部を模したSARファントムを使用し、通話位置に携帯電話を配置します。頭部全体で最も高い吸収率を示す場所（通常はアンテナに近い場所）で測定が行われます。測定は、頭部の両側の異なる位置、および携帯電話が送信できる全ての周波数帯域で行われます。また、携帯電話のサイズや機能によっては、胴体や四肢の近くに携帯電話を置いた状態での測定も必要となる場合があります。

各国政府は、携帯電話から送信される電磁的エネルギーの最大SARレベルを規定しています。

アメリカ合衆国: FCC（連邦通信委員会）は、販売される携帯電話のSARレベルが、最大の信号を吸収している1gの組織について1.6W/kg以下であることを要求しています。
欧州連合: CENELEC（欧州電気標準化委員会）は、IEC規格に従って、EU内のSAR制限を規定しています。携帯電話などの手持ちデバイスの場合、SARの制限は、最大の信号を吸収する10gの組織について平均2W/kgです。
インド: 2012年にEUの制限から米国の制限に切り替えました。インドでは、政府が運営するTEC（インド電気通信技術センター）のSAR実験室でランダムコンプライアンステストが行われます。すべてのハンドセットにはハンズフリーモードが必要です。
日本: 日本におけるSARの制限は、無線設備規則第14条の2において、組織10gについて2W/kg以下、四肢については4W/kg以下と規定されています。

SAR値は対象とする組織の体積に大きく依存するため、異なる測定値を比較する際は、使用された体積に関する情報を考慮する必要があります。ヨーロッパの10g評価は10g評価同士で、米国の1g評価は1g評価同士で比較されるべきです。

MRIスキャナーのSAR測定

MRI（核磁気共鳴画像法）におけるSARの規制（IEC 60601-2-33に記載）は、より複雑です。

部分SARは10gの組織について決定されます。
限度は、「曝露された部分の質量/患者の質量」の比率で動的に変化します。
通常動作モード: 局所SAR = 10 W/kg - (8 W/kg × 曝露された部分の質量/患者の質量)
第1レベル管理動作モード: 局所SAR = 10 W/kg - (6 W/kg × 曝露された部分の質量/患者の質量)
軌道が小型の局所RF送信コイルの範囲内にある場合は、温度上昇が1℃に制限されるように注意する必要があります。

SARへの批判

法律で定められたSAR制限は、マイクロ波聴覚効果の原因となるパワーピークや周波数に対し人体が特に敏感であることを考慮せずに設定されています。マイクロ波聴覚効果は、政府規制により設定されているSAR限界をはるかに下回る電力密度でも発生すると報告されています。

一般大衆の長期的な環境被曝については、全身で平均して0.08W/kgの制限があります。職業被曝に対しては0.4W/kgの全身平均SARが制限として選択されています。公衆被曝のためには、安全係数5が導入され、全身SARの平均制限値を0.08W/kgにしています。

FCCによるアドバイス

FCCは、SAR値の制限を詳しく説明した後で、「要点」としてSARに関する情報を公開しています。

関連項目

誘電加熱
* 電磁放射による健康被害

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