毛抜 (歌舞伎)

毛抜（けぬき）

概要

歌舞伎の十八番の一つである『毛抜』は、様々な要素が絡み合う魅力的な物語を備えています。本作品は、家族と権力争いの背景を通じて、主人公の粂寺弾正の知恵や推理を描き出しています。

あらすじ

物語は、公家小野春道の娘である錦の前が、同じく公家である文屋豊秀との婚儀を控えているところから始まります。しかし、彼女は突如として「髪の毛が逆立つ」という奇病を患い、婚儀は危機に陥ります。

文屋豊秀の家臣である粂寺弾正が、この一件を調べるために春道の館を訪れます。彼は、髪の逆立つ様子に驚きながらも、意外にも毛抜きを使って髭を抜いている最中に、この毛抜きが自ら動き出す不思議な現象を目撃します。

驚きを隠せなかった弾正は、その奇妙な毛抜きを手がかりに髪が逆立つ理由を追求します。調査を進めるうちに、実はこの奇病は小野家の家臣が仕組んだもので、天井裏に設置された巨大な磁石と、鉄製の髪飾りを使っていたことが明らかになります。

展開

この陰謀は、小野家を乗っ取るための計画の一環であり、粂寺弾正はその家臣を討つ決意を固めます。物語は急展開を迎え、弾正が巧妙な策略を用いて家臣に立ち向かう姿に観客は引き込まれます。

特徴

『毛抜』は、そのタイトルに日常的な道具を用いることで、非常に独特な趣向を持っています。また、髪の毛を逆立たせるという驚くべき設定に加え、磁石を用いたトリックが話の進行に大きく寄与している点も見逃せません。

主人公の弾正は、表面的には軽快な振る舞いを見せつつも、自身の知恵を駆使して事件を解決しようと奮闘します。この微妙なキャラクターの複雑さは、観劇者にとってさらに興味深い要素となっています。

上演歴

『毛抜』は、初演が寛保2年（1742年）に大阪の佐渡嶋長五郎座で行われました。この初演時の粂寺弾正役は、当時の著名な俳優であった二代目市川海老蔵が演じました。その後、この作品は四代目・五代目市川團十郎らによっても取り上げられ、歌舞伎の中で受け継がれてきました。

天保3年（1832年）には歌舞伎十八番の中に組み込まれましたが、後には上演されることが無くなり、演目としては伝承が途絶えてしまいます。しかし、二代目市川左團次が岡鬼太郎のなる提案を受けて復活に取り組み、明治42年（1909年）に上演を実現しました。この際には元の脚本に手を加え、型も再構築することで新たな形で観客に届けています。

現代の影響

以降は、他の役者たちも左團次が創り上げた型に基づいて演じるようになり、『毛抜』や関連する演目が現在まで受け継がれています。役者が演じる際の衣装にも特色があり、家によって異なる着付けが行われています。

『毛抜』の魅力は、その意外性や知恵を駆使した物語の展開にあり、観客を引き込む力がある作品です。また、作品に寄り添うように日常的な道具が繊細にストーリーに活かされている点が、歌舞伎の中におけるその独特の地位を確立しています。

もう一度検索