民主主義革命における社会民主党の二つの戦術

『民主主義革命における社会民主党の二つの戦術』について

ウラジーミル・レーニンが1905年7月に発表した『民主主義革命における社会民主党の二つの戦術』（以下、『二つの戦術』）は、1905年のロシア第一革命という激動の時代を背景に、社会民主労働党が直面した戦術上の重要な問題を論じた著作です。この著作でレーニンは、革命の性格、目標、そしてプロレタリアートが果たすべき役割について、独自の視点から分析を展開し、後のロシア革命の理論的基盤を築きました。

背景：血の日曜日事件と革命運動の勃興

1905年1月9日、ペテルブルクで発生した「血の日曜日」事件は、帝政ロシアの社会に大きな衝撃を与えました。この事件は、民衆が皇帝ニコライ2世に請願を行った際に、軍隊が発砲し多数の死傷者を出したもので、これをきっかけに抗議のストライキがロシア全土に広がりました。社会民主主義者たちはこの事態を革命の始まりと捉え、今後の戦術について活発な議論を展開しました。

この議論の中で、パルヴスはロシア革命を「労働者による革命」と捉え、社会民主党が革命の先頭に立つべきだと主張しました。トロツキーもパルヴスの主張に同調し、既存のブルジョア革命観からの脱却を主張しました。一方、レーニンはパルヴスの主張を原則的に受け入れつつも、当時のロシアにおけるプロレタリアートの少数性を指摘し、プロレタリアートと農民が協力して革命を遂行する必要性を説きました。

これに対し、メンシェヴィキの主流派は伝統的な考え方を維持し、ブルジョア革命においては社会民主党は急進的な野党に留まるべきだと主張しました。このような状況の中、ボリシェヴィキとメンシェヴィキはそれぞれ党大会と協議会を開催し、革命における戦術をめぐって激しい論争を繰り広げました。

『二つの戦術』の内容：ボリシェヴィキの立場

『二つの戦術』は、ボリシェヴィキが採用した決議を擁護するために執筆されました。この著作でレーニンは、革命の目標を「専制政治の打倒と民主共和制の樹立」に置き、これを達成するためには「プロレタリアートと農民の革命的民主主義的独裁」が必要だと主張しました。この「労農民主独裁」は、当時のロシア社会における階級構成を考慮した上で、プロレタリアートと農民が共同して権力を握り、民主主義革命を遂行するという考え方を示しています。

レーニンは、この独裁が資本主義の基盤に触れることはないものの、農民の利益になるような土地改革の実施や、徹底した民主主義の実現を可能にすると述べました。また、革命の成果を維持・拡大するためには、武装したプロレタリアートが臨時革命政府に継続的に圧力を加える必要があると主張しました。

メンシェヴィキとの対立：臨時政府への参加

『二つの戦術』では、メンシェヴィキの決議に対する批判も展開されました。メンシェヴィキは、ブルジョア革命においては社会民主党は「最左翼の革命的反政府党」として留まるべきであり、臨時革命政府への参加は避けるべきだと主張しました。これに対し、レーニンは、メンシェヴィキの立場は、革命の主導権をブルジョアジーに譲り渡すことになると批判しました。また、メンシェヴィキが臨時革命政府と憲法制定会議を同列に扱っていることも批判しました。

革命の展開とソヴィエトの出現

1905年10月、ロシア第一革命は最高潮に達しました。労働者によるゼネラル・ストライキが拡大し、労働者代表ソヴィエトが出現しました。このソヴィエトは、革命における労働者の独自の組織として、重要な役割を果たしました。10月17日には、皇帝が市民的自由と国会開設を約束する「十月詔書」を発布しましたが、社会民主主義者たちは闘争を継続しました。

しかし、11月から12月にかけて、ソヴィエトは弾圧され、12月のモスクワでの武装蜂起も失敗に終わりました。この挫折は、革命の進展における困難さを浮き彫りにしましたが、同時に、社会民主主義者たちの間で、今後の戦術についてさらに議論を深めるきっかけにもなりました。

トロツキーの批判：永続革命論

革命後、トロツキーは『総括と展望』を発表し、レーニンの「労農民主独裁」論を批判しました。トロツキーは、農民には独自の政治的役割を果たす能力がないとし、プロレタリアートが革命を主導すべきだと主張しました。また、プロレタリアートが政権に参加する以上、ブルジョア革命の枠内に留まることは不可能であり、社会主義革命へと進む必要があるという「永続革命論」を提唱しました。

まとめ

『二つの戦術』は、ロシア革命における戦術論争の中心的な著作であり、後のロシア革命に大きな影響を与えました。この著作でレーニンが展開した「労農民主独裁」論は、後の共産主義運動における重要な理論的基盤となりました。また、この著作におけるメンシェヴィキとの対立は、ボリシェヴィキとメンシェヴィキの分裂を決定的なものにする要因の一つとなりました。この著作は、20世紀初頭のロシア社会における複雑な政治状況と、革命運動の理論的発展を理解する上で、非常に重要な資料です。

もう一度検索