民族自決権について

レーニン『民族自決権について』の詳細解説

『民族自決権について』（ロシア語: О праве наций на самоопределение）は、ウラジーミル・レーニンが1914年に発表した著作です。この中でレーニンは、民族自決権を「ある民族が他の民族の集合体から国家的に分離して民族国家を形成する権利」と定義し、その重要性を主張しました。

背景：民族自決権を巡る論争

19世紀末から20世紀初頭にかけて、民族自決権を巡る議論は激化しました。1896年の第二インターナショナル・ロンドン大会では、すべての民族の自決権を承認する決議が採択されましたが、その具体的な意味合いは必ずしも明確ではありませんでした。特に、ポーランドの独立問題を巡っては、ローザ・ルクセンブルクが独立要求を否定し、ポーランド社会党が反論するという論争が起きていました。

ロンドン大会の決議文には「民族自治」と「民族自決権」の区別が曖昧なまま残されました。この曖昧さを背景に、レーニンとルクセンブルクは異なる解釈を展開しました。ロシア社会民主労働党は、1903年の第二回党大会で民族自決権を認める綱領を採択しましたが、ポーランド社会民主党はこれに反対し、党内での意見対立が表面化しました。ポーランド社会民主党は、その後、ロシア社会民主労働党に加入しますが、民族問題に関する立場は依然として異なっていました。

ローザ・ルクセンブルクは、1908年から1909年にかけて発表した論文「民族問題と自治」で民族自決権を否定しました。これに対し、レーニンは改めて民族問題に取り組み、『民族自決権について』を執筆し、ルクセンブルクの主張を批判しました。

本書の概要：民族自決権の理論的根拠

レーニンは、本書で資本主義の発展段階と民族運動の関係を分析し、民族自決権の理論的な根拠を示しました。資本主義の発達は国内市場の確立を必要とし、そのために同一言語を共有する住民が国家として統合されることが必要であるとしました。つまり、資本主義の発展段階において、民族国家の形成は必然的な流れであると主張しました。

レーニンは、資本主義の発展段階を二つに区分しました。第一の時期は、封建制度と絶対主義が崩壊し、民族運動が勃興する時期です。この時期には、農民層が民族運動に巻き込まれ、民族の権利を求める闘争が展開されます。第二の時期は、資本主義が確立し、プロレタリアートとブルジョアジーの対立が激化する時期です。この時期には、資本の国際化が進み、民族間の結びつきが強まる一方で、国際的な労働運動が展開されます。

レーニンは、民族運動の視点から、資本主義の発展段階に応じて異なるアプローチが必要であると主張しました。第一の時期においては、民族運動を支援し、民族自決権を擁護することが重要です。第二の時期においては、民族間の分裂を煽るのではなく、労働者の国際的な連帯を重視し、階級闘争を優先する必要があります。しかし、いずれの時期においても、民族の抑圧は資本主義の負の側面として捉え、これを解消する努力を怠るべきではないとしました。

レーニンは、1896年のロンドン国際大会の決議を引用し、民族自決権を明確に承認する一方で、労働者の国際的な統一を強調しました。また、ポーランド独立問題を巡る議論を分析し、民族解放の課題を無視することは誤りであると指摘しました。ロシア社会民主労働党の綱領における民族自決権の条項を巡る議論についても言及し、民族自決権の承認は、無条件に民族独立を要求することを意味するものではなく、プロレタリアートの階級闘争の利益に従属すべきであると主張しました。

さらに、大ロシア人的民族主義を批判し、民族自決権を認めることが、あらゆる民族の完全な同権を保障するために不可欠であるとしました。その上で、ロシアのプロレタリアートは、あらゆる民族主義と闘いながら、同時に、民族の分裂を煽るのではなく、国際的な労働運動の統一を促進するべきであるとしました。

その後の展開：帝国主義と民族自決権

第一次世界大戦が勃発すると、レーニンは戦争を帝国主義戦争と捉え、民族問題も帝国主義論の観点から再考しました。1915年に出版された小冊子『社会主義と戦争』では、「資本主義は、封建制度との闘争のさいには諸民族の解放者であったが、帝国主義的資本主義は諸民族の最大の抑圧者にかわった」と述べています。帝国主義の時代においては、民族自決権は単なる理念ではなく、社会主義革命と結びついた実践的な課題として捉えられるようになったのです。

1916年に発表されたテーゼ「社会主義革命と民族自決権」では、帝国主義を資本主義の最高段階と位置づけ、民族自決権の実現を社会主義革命と結びつけました。レーニンは、民族自決の観点から、(1)西ヨーロッパの先進的な資本主義諸国、(2)東ヨーロッパ諸国、(3)中国、ペルシア、トルコのような半植民地諸国とすべての植民地を区別し、それぞれの状況に応じた民族自決権の実現方法を提唱しました。

まとめ

レーニンの『民族自決権について』は、民族自決権を単なる政治的な権利としてではなく、資本主義の発展段階と関連付け、社会主義革命の重要な要素として捉えた点で、非常に重要な著作です。民族問題の本質を理解し、民族解放を推進するための理論的基盤を提供しました。この著作は、現代においても、民族問題や国家間の関係を考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

この著作は、単なる政治理論ではなく、社会変革を目指す実践的な行動指針としても重要です。民族自決権を理解することで、民族間の不平等や抑圧を解消し、より公正で平和な社会を築くための行動に繋げることができます。レーニンの思想は、現代の国際社会においても、民族問題や人権問題に取り組む上で、重要な視点を提供しています。1300文字程度

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