気比丸

気比丸 (けひまる)

概要

気比丸は、1938年に進水し、1939年に完成した日本の貨客船です。この船は日本海横断航路の重要な存在であり、当時の貨客船として注目を集めました。しかし、1941年11月に発生した沈没事故によって、その歴史は悲劇的なものとなりました。この事故では156人が命を失い、多くの人々に衝撃を与えました。

建造の背景

気比丸は、北日本汽船の依頼により、浦賀船渠で建造されました。この船は内地と朝鮮半島北部を結ぶ航路のために設計された「月山丸」型の2番船です。北日本汽船は1928年に敦賀港と清津を結ぶ航路を開設して以来、日本海を越える航路の重要性を認識し、その強化に努めていました。気比丸の名前は、定期航路の発着地である敦賀の氣比神宮から取られています。

気比丸は冬季の日本海での運航にも対応できるように設計され、特に砕氷船としての機能を持っていました。搭載されたエンジンは当時の商船に広く使用されていた三連成レシプロエンジンを改良したもので、浦賀船渠が独自に開発した低圧タービン付き複二連成レシプロエンジンが搭載されていました。

運航実績

気比丸は、その完成後、敦賀港から朝鮮半島の羅津や清津を経てソ連領のウラジオストクまで運航される定期航路に就航しました。この航路は逓信省の命令によるもので、以前は「さいべりや丸」が運航していましたが、気比丸の就航以降、船舶の総トン数要件が引き上げられました。

日本が第二次世界大戦に巻き込まれる前も、気比丸はその役割を果たし続けていました。1940年には敦賀北鮮線に移管され、月に6便以上の運航計画で運行されていました。この定期航路は、敦賀を午後に出港し、翌々朝に清津に到着するというもので、多くの乗客に利用されていました。気比丸は、その豪華さと運航の安定性から日本海航路の象徴的な存在となったのです。

気比丸遭難事件

1941年6月に始まった独ソ戦を受けて、ソ連は日本海に機雷を敷設しました。これにより、航行には大きな危険が伴う状況が続きました。同年11月5日、気比丸は清津から敦賀に向けて出航した際、波が高く、機雷の発見が難しい条件になっていました。船には乗客358人と乗員89人が搭乗していました。

同日午後10時14分、気比丸は左舷船首に浮流機雷が接触し爆発。これにより浸水が始まり、船は沈没していきました。船長は速やかに総員退船を命じ、救命ボートや筏が順調に発進しました。約10時間後に救助された生存者たちは、乗客136人・乗員20人が行方不明となり、多くの命が失われました。

気比丸の沈没は、日本政府にも大きな影響をもたらしました。事件は天皇にも報告され、しばしば国際問題に発展する可能性が論じられました。しかし、日本の宣戦布告により、事態はあまり注目されなくなり、最終的には多くの人々がこの悲劇を忘れていくこととなりました。

気比丸の遭難事件は、当時の航海に対する危険性や国際関係の複雑さを象徴する出来事として、今なお語り継がれています。

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