水の話

『水の話』(Une histoire d'eau)は、1958年に製作されたフランスの短編映画です。フランソワ・トリュフォーとジャン＝リュック・ゴダール、ヌーヴェルヴァーグを代表する二人の巨匠が共同で監督を務めた、非常に珍しい作品として知られています。

この映画は、洪水に見舞われた街を舞台に、パリを目指して奮闘する若い女性の姿を描いています。華麗な映像や複雑なストーリー展開といった、一般的な傑作と呼ばれる映画の要素は少ないかもしれません。しかし、この作品が持つ価値は、その稀有性と、後のヌーヴェルヴァーグ作品に繋がる実験的な手法、そして二人の監督の初期の才能を垣間見ることができる点にあります。特に、後に袂を分かつことになる二人の監督が共同で製作した唯一の作品であるという点で、映画史における重要な位置を占めていると言えるでしょう。

映画製作のきっかけは、新聞記事に掲載されたパリ郊外の洪水の写真でした。トリュフォーがその洪水を題材に映画を製作することを提案し、ゴダールが賛同したことから、このプロジェクトは始まりました。即興的な撮影方法が採られ、わずか一日半で撮影は終了しました。しかし、当初は映画として完成させることを諦めていた作品を、ゴダールが編集することで、最終的に作品として世に出ることとなりました。

1961年、パリで公開された際には、ジャック・ドゥミ監督の『ローラ』と併映されました。既に『大人は判ってくれない』や『勝手にしやがれ』で高い評価を得ていたトリュフォーとゴダールだけに、観客の期待は大きかったようです。しかし、結果として観客からはブーイングの嵐に見舞われたという記録が残っています。公開当時の観客の反応は、この作品が当時の映画界の常識を覆すような、実験的な試みだったことを示唆していると言えるでしょう。

日本での公開は1994年で、『水の話/プチ・シネマ・バザール』というオムニバス映画の一部として上映されました。他の作品には、コーシャ・フィレンツ監督の『詩人ヨーゼフ・アッティラの少年期』、コンスタンチノス・カパカス監督の『ストライプ』、ヤン・シュヴァンクマイエル監督の『闇・光・闇』、そしてマーク・ハーマン監督の『奇妙な隣人』が選ばれ、5つの短編映画が一つの作品として公開されました。

この映画には、サイレント映画時代の巨匠、マック・セネットへのオマージュが込められているとされています。また、ゴダールらしいユーモラスな遊び心として、1954年に出版されたドミニク・オーリー（ポーリーヌ・レアージュ）の性愛文学『O嬢の物語 (Histoire d'O)』とタイトルが韻を踏んでいる点も注目すべきでしょう。

キャストは、青年役にジャン＝クロード・ブリアリ、少女役にカロリーヌ・ディム、ナレーションはジャン＝リュック・ゴダール自身となっています。この映画は、二人の監督の初期作品であり、ヌーヴェルヴァーグ運動の黎明期における実験的な試みを知る上で、非常に貴重な資料と言えるでしょう。短いながらも、その後の二人の監督のキャリア、そしてヌーヴェルヴァーグという映画運動の展開を予感させる、興味深い作品です。

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