水豊ダム

水豊ダム：鴨緑江に眠る巨大ダムの歴史と現状

水豊ダムは、中国と北朝鮮の国境を流れる鴨緑江に建設された、大規模な水力発電用ダムです。その規模は高さ約106メートル、幅約900メートル、総貯水容量は116億立方メートルに及びます。ダム湖である水豊湖は、琵琶湖の約半分の面積を誇り、完成当時は東洋一の規模でした。

建設の背景と日本の関与

水豊ダムの建設は、日本統治下の1937年に始まりました。当時、日本は満州国を支配下に置いており、鴨緑江流域における水力発電開発を推し進めていました。その一環として、水豊ダムは70万kWという巨大な発電能力を持つダムとして計画され、建設が進められました。

この計画には、日本の企業である日本窒素肥料（後のチッソ）が深く関わっており、関連会社を通じて建設資金の調達や工事の実施を担いました。発電機の製造には、東芝やシーメンスといった当時の最先端技術を持つ企業が参加し、ダム建設には間組、西松組などが携わりました。

1941年には一部発電が開始され、終戦時には60万kWの発電能力を持つまでになりました。しかし、第二次世界大戦の影響で一部設備が未完成のまま終戦を迎えることとなりました。

朝鮮戦争とダムへの攻撃

朝鮮戦争中、水豊ダムは国連軍による空爆の標的となりました。ダムは北朝鮮にとって重要な電力供給源であり、国連軍はダムを破壊することで北朝鮮の戦力を削ぐことを目指しました。1952年には大規模な空爆が行われ、発電設備は大きな損害を受けましたが、ダム本体への損傷は軽微でした。

現在の状況と周辺環境

現在、水豊ダムは北朝鮮の重要な電力供給源として機能しています。発電所は北朝鮮側に位置しており、ダム湖周辺には金一族の別荘である昌城官邸があります。しかし、ダム周辺は厳重な警備体制が敷かれており、観光地化はされていません。

中国側も国家機密扱いとしており、付近のタクシー運転手でさえダムの存在を知らないほどです。水豊ダムは、その歴史的背景と政治的な状況から、一般の目に触れることの少ない、秘匿された存在となっています。

水豊ダムは、日本の統治時代に建設され、朝鮮戦争の戦火をくぐり抜け、現在も北朝鮮の電力供給を支えるという、複雑な歴史を持つダムです。その存在は、東アジアの近現代史を語る上で欠かすことのできない、重要な要素の一つと言えるでしょう。

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