氷の涯

『氷の涯』

概要

『氷の涯』は、1933年2月号の『新青年』に掲載された、夢野久作の探偵小説です。この作品は、夢野による手記形式で書かれており、ロシア内戦の激動の中を背景に、満州のハルピンを舞台にしています。物語は、登場人物の一人、上村作次郎の視点から語られ、彼の手記を通じて展開されるストーリーとなっています。

あらすじ

主人公の上村作次郎は、大正9年（1920年）にシベリア出兵中に記した手記を元に物語が進みます。上村は帝国陸軍の一等卒という立場にありますが、ある大事件に巻き込まれ、日本軍、白軍、赤軍の三者に狙われることとなります。特に日本の官憲には「売国、背任、横領、誣告、拐帯、放火、殺人、婦女誘拐」などの重罪で追い詰められ、彼の手記はその真相と結末を明らかにする役割を果たしています。

登場人物

• - 上村作次郎: 本作の語り手で、文学青年でありながら女嫌い。東京美術学校を中退し、ピアノ奏者からペンキ職人を経て、陸軍に徴兵されました。ロシア内戦による混乱の中、満州に出征し、事件に巻き込まれていきます。
• - オスロフ・オリドイスキー: 白軍の総元帥で、シベリア王国の建設を計画している重要人物。日本軍とも関係があり、最近では各地を旅行しています。
• - ニーナ: オスロフの養女で、19歳ながら若々しい外見を持つ。彼女は酒を飲むと驚異的な記憶力を発揮し、物語に重要な役割を果たします。
• - 富永トミ: 大衆料理店「銀月」の女将で、事件に関与している役割もあります。
• - 坂見芳太郎: 「銀月」の会計係であり、事件の調査にも絡みます。
• - 星黒: 二等主計として経理室で働き、事件に関与することになります。
• - 十梨: 司令部附きのロシア語通訳で、事件解決に重要な手記の翻訳を行っていました。

舞台

本作は、当時のハルピンを中心に構成されています。旧市街である傅家甸は中国人街として知られ、新市街はロシア人街が広がっていました。さらに、埠頭区には商業施設が集まり、日本人もこの地域に住んでいました。また、ナハロフカという貧民街も重要な舞台として描かれています。

関連項目

本作は、シベリア出兵や日支共同防敵軍事協定など、当時の歴史的な背景とも密接に関連しています。内戦と国際的な緊張が絡み合う中で、上村の手記は個人の運命と歴史の交差点を浮き彫りにしています。彼が描く真実は、探偵小説という形式を通じて、読者に深い考察を促すことでしょう。

この中編探偵小説は、単なる犯罪事件の捜査に留まらず、内戦という混乱した状況の中での人間模様や道徳的葛藤を描いています。夢野久作の独特な文体と緊張感あるストーリー展開は、読者を引き込み続けることでしょう。

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