永富独嘯庵

永富独嘯庵（ながとみ どくしょうあん）

永富独嘯庵は、享保17年（1732年）に生まれ、明和3年（1766年）に35歳で没した江戸時代中期の医師です。彼は、山脇東洋の門下として古方派医学を学びましたが、その知識に固執することなく、西洋医学など新たな分野も取り入れようとした革新的な人物でした。

生涯

独嘯庵は、長門国豊浦郡宇部村（現在の山口県下関市長府王司）で生まれました。幼名は鳳介といいました。13歳で医師である永富友庵の養子となり、医学の道を歩み始めます。14歳で江戸に遊学し医学を学びますが、医学だけに留まらず山県周南のもとで儒学も学びました。しかし、17歳で一度帰郷し儒学を教える生活を送ります。その後、京都にて古方派の山脇東洋や香川修庵の存在を知り、再び京都へ赴き東洋の門人となりました。これがきっかけとなり、医学への情熱を燃やし才能を開花させていきます。その才能は広く知られるようになり、諸侯からの招聘も多くありましたが、東洋は独嘯庵に任官を勧めませんでした。

21歳の時には、東洋の指示で越前の奥村良筑のもとへ赴き、当時画期的であった「吐方」（嘔吐を促す治療法）を学びました。29歳の時、病に倒れたことをきっかけに家を離れ、諸国を漫遊します。長崎では、オランダ医学を吉雄耕牛に学びました。この時の見聞をまとめたものが、著書である『漫遊雑記』です。この『漫遊雑記』は、後に華岡青洲が乳がん手術を行う上で大きな影響を与えたとされています。

30歳で大阪にて開業し、多くの門人を育成しましたが、35歳という若さで病没しました。

業績と影響

独嘯庵は、古方派医学を基盤としながらも、西洋医学の知識を取り入れることで、より広い視野で医療に取り組もうとしました。その姿勢は、当時の医学界において革新的であり、後の医学に大きな影響を与えました。

著書としては、『漫遊雑記』、『吐方考』、『嚢語』などが挙げられます。彼の言葉に「病を診すること年ごとに多きに技為すこと年ごとに拙し。益々知る、理を究ることは易く、事に応ずることは難きことを。」というものがあります。これは、経験を積むほどに自分の未熟さを知り、知識を深めることよりも実践することの難しさを痛感するという意味であり、彼の謙虚な人となりを表しています。

大正5年（1916年）には、その功績が認められ正五位を追贈されました。

墓所

独嘯庵の墓所は、蔵鷺庵にあります。

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