古方派

古方派とは

古方派（こほうは）は、江戸時代に興った漢方医学の一派であり、古医方派（こいほうは）とも呼ばれます。その根本にあるのは、古代の聖人が確立した医学を現代に再現しようとする思想です。特に、『傷寒論』や『金匱要略』といった古典に収められた薬方を重視する一方で、宋代以降に発展した中国医学の病理や薬理に対する批判的な視点を持っていました。

古方派の源流と展開

名古屋玄医は、中国の易水学派や錯簡重訂学派の影響を受け、独自の生命観に基づいて古典への回帰を提唱しました。彼の学説は、伊藤仁斎の古義学（朱子学批判）と同時期に現れ、医学界に大きな影響を与えました。

古方派の医家として明確に定義される人物は時代や研究者によって異なりますが、一般的には後藤艮山、香川修庵、松原一閑斎、山脇東洋の四名が「古方四大家」として知られています。

後藤艮山：一気留滞説を唱え、食事療法、灸、熊胆、民間療法など、多岐にわたる治療法を実践しました。
山脇東洋：『外台秘要方』の復刻に尽力し、「古の道に拠って今の術を採る」ことを目標に、古典に根ざした医療を目指しました。
香川修庵：『傷寒論』をも批判の対象とし、「孔子の聖道と医術の本は一つ」という信念のもと、独自の医学を追求しました。
松原一閑斎：多くの門人を抱えましたが、著書を嫌い、その思想は口伝によって伝えられました。

吉益東洞は、徳川吉宗・家重の時代に『類聚方』などを著し、古方派を確立しました。彼の処方は効果が高い反面、瞑眩反応（めんげん）と呼ばれる激しい副作用を伴うこともありましたが、吉益東洞はその効果を重視しました。

古方派の流れを汲む人々

その他にも、後藤慕庵、後藤椿庵、香川景与、山脇東門、吉益南涯など、多くの医家が古方派の流れを汲んでいます。中には、折衷派と呼ばれる人々も含まれており、蘭学の要素を取り入れた華岡青洲もその一人です。幕末には、尾台榕堂が優れた古方家として知られました。

このように、古方派は単一の学派ではなく、多様な思想や方法論を持つ医家たちの集まりであり、江戸時代の医学界に大きな足跡を残しました。彼らの古典への回帰と批判精神は、現代医学にも通じる視点を提供しています。

参考資料

* 『古方薬品考』国立国会図書館デジタルコレクション

もう一度検索