永遠の胸

「永遠の胸」（えいえんのむね）は、日本のシンガーソングライター、尾崎豊が1991年 1月21日にCBS・ソニーからリリースした10枚目のシングルです。英題は「Eternal Heart」とされています。この楽曲は、前年発表された5作目のオリジナルアルバム『誕生』から、シングルカット第2弾として発表されました。作詞・作曲・プロデュースは尾崎自身が手がけており、シングルのジャケットアートワークも彼自身が担当しています。

このシングルは、尾崎豊が自身の個人事務所「アイソトープ」を設立してから初めて世に出た作品となります。楽曲には、人間の愛情が時に欲望へと繋がりうる危険性や、人との出会いを通じて得られた学びや経験を自身の心に抱き続けることの重要性といったメッセージが込められており、ロックテイストのアレンジが施されています。オリコンチャートでは最高位23位を記録しました。

背景

アルバム『誕生』をリリースした直後、尾崎豊は当時所属していた事務所「ロード&スカイ」に対して、金銭的な利益のために利用されているという疑念を抱き、退所を決意します。彼は事務所代表の高橋信彦に対し、退所の意向を伝えつつ、共に新たな独立事務所を立ち上げる案を示唆しましたが、高橋は尾崎の活動の一部にのみ関与していたため、猜疑心の対象とはならず、むしろ深く関わることで自身も同様の状況に陥ることを懸念し、その提案を受け入れませんでした。

こうした経緯を経て、尾崎は1990年 12月19日に自身の個人事務所「アイソトープ」を設立し、自ら代表取締役に就任します。これにより、コンサートツアーの企画やバンドメンバーの人選なども尾崎自身の裁量で行われるようになります。この事務所設立には、文芸・音楽誌『月刊カドカワ』の編集長であった見城徹が深く協力しており、その支援は編集長の立場を超えたものだったため、もし編集部に発覚すれば彼の立場が危うくなるほどの手厚いものでした。事務所設立後、尾崎は新たな仕事場を確保し、そこへ移り住んでいます。

本作のリリースから約1ヶ月後の1991年2月28日には、角川書店から初の小説集『普通の愛』を出版するなど、この時期の尾崎は、音楽家、レコーディング・プロデューサー、事務所社長、そして小説家と、様々な顔を持ち、精力的に活動する非常に多忙な日々を送っていました。

制作と楽曲に込められた思い

尾崎は本作の制作にあたり、自らの創作活動や内面についていくつかの重要なコメントを残しています。彼は、アルバム『誕生』の制作を通じて、10代の頃に培った感性だけでは全てを網羅できないことを感じていたと語ります。新たなアイデアが次々と湧き出す一方で、それが周囲の人々との間に距離を生むことにも繋がったと感じていたようです。そして、その距離によって生じた内面の枯渇を埋めるため、過去を振り返り、ファンが彼を見る視点に立ち戻ることで、ようやく表現する上での確固たる実体を得られたと述べています。

また、ニューヨーク滞在時の経験にも触れ、文化の発信地とされるその街でも、実際には人々が日々の生活に追われており、人間としての本質は日本と変わらないことを実感したと語っています。さらに、国家にとって最も必要なことは国民に食料を与え、育てることの2点であると指摘し、観念的な世界に身を置いていた自身と、現実の生活を送る人々との間に強い隔たりを感じていたことを明かしています。自身の感覚を、そうした生活に根ざした地点まで戻すことが、いかに大変であったかを述懐しています。

アルバム『誕生』のタイトルについては、当初は本作のタイトルである「永遠の胸」も候補に挙がっていましたが、最終的に「誕生」に決定されました。

楽曲の歌詞が一部で難解であるとの意見があったことに対し、尾崎は人への愛情には物質的なものが伴い、それが欲望へと発展する危険性を指摘し、10代のリスナーにとっては理解が追いつかないレベルである可能性に言及しています。彼は本作を解説する中で、人は他者との出会いから何らかの影響を受け、学ぶべきことがあればそれは自身の内面にある「聖書」であり、他者には理解できないものであると語ります。そして、歌詞の後半部分「裁くものがあるなら僕は君の面影を強く抱えて」以降について、出会った人々の面影を心に留め、互いの間で下された判断も含めて静かに抱え待ち続けることが「永遠の胸」であり、人間が心に抱き続けなければならない感情であると主張しました。「全ての思いを抱え、全ての君の面影を抱えていくことが、全ての答えを待ち続けることなんだということは、僕にとってすごく分かりやすいことだ」と、自身の言葉でその意味を説明しています。

リリースとチャート

本作は1991年 1月21日に、8センチCDとカセットテープの2つの形態でリリースされました。1990年10月から1991年1月にかけての約4ヶ月間、尾崎はシングル3枚、アルバム1枚と集中的に作品を発表しており、まさにリリースラッシュの時期でした。

アルバム『誕生』からは本作を含め計3曲がシングルカットされています。これは、『誕生』に収録された多岐にわたる楽曲の要素を紐解き、より多くの人々に尾崎の音楽を届けるための戦略的な意図があったとされています。

オリコンチャートにおける本作の最高位は23位で、チャートには5週登場し、売り上げ枚数は約2.7万枚となりました。

ライブでの披露

「永遠の胸」は、尾崎が生涯最後に行った全国コンサートツアー「TOUR 1991 BIRTH」において、アンコールの一曲目として（全体の19曲目）演奏されました。また、「"BIRTH" スタジアム・ツアー <THE DAY>」でも披露され、この時は15曲目に演奏されています。ツアー最終日となった1991年 10月30日の代々木オリンピックプール公演では、一番目のサビで歌詞を間違えるアクシデントがありましたが、演奏はそのまま続けられ、彼は再び最初からサビを歌い直しています。

この楽曲は、その後のライブ音源アルバムにも収録されており、特に1991年 10月30日の代々木公演の音源は、ライブアルバム『約束の日 Vol.2』（1993年）に収められています。また、ベストアルバムにも複数回収録され、尾崎豊の重要なレパートリーの一つとして位置づけられています。

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