汚れた絆
シンガーソングライター、尾崎豊の通算12枚目にあたるシングル「汚れた絆」は、1992年5月10日にソニー・ミュージックレコーズから発売されました。英題は「BOND」とされています。
このシングルは、前作「I LOVE YOU」から約1年2か月ぶりのリリースであり、同日には6枚目のオリジナルアルバム『放熱への証』（1992年）も発表されています。作詞、作曲、そしてプロデュースは尾崎豊自身が担当しました。
楽曲は、裏切りにより関係が途絶えてしまった親しい人物との過去を振り返る内容です。しかし、単に悲観的に終わるのではなく、過去に存在した輝きが失われることはない、という前向きなメッセージが込められています。音楽性においては、尾崎の初期作品で多くの編曲を手掛けた西本明が、アルバム『街路樹』（1988年）以来、約4年ぶりに参加。彼の参加は、この楽曲を含むアルバム『放熱への証』の3曲で見られ、原点回帰を思わせるサウンド作りを目指した構成となっています。ライターの落合昇平氏は、西本明こそが初期の尾崎サウンドのイメージを構築した人物であり、「汚れた絆」にもその影響が感じられると評しています。
ノンフィクション作家の吉岡忍氏は、この曲を「わかりやすい歌」と表現。5枚目のアルバム『誕生』（1990年）収録曲に見られるような猜疑心や被害者意識が薄く、「裏切り」という言葉が使われていながらも、尾崎自身の具体的なトラブルを連想させない、抽象化・一般化されたテーマとして描かれていると分析しています。さらに吉岡氏は、「汚れた絆」が、裏切りによる泥沼化した人間関係そのものよりも、なぜ裏切りに至ったかの背景を描写しており、個人の悪意ではなく、社会的役割や仕事上の都合によるやむを得ない離別を、淡々と歌い上げている楽曲だと述べています。
シングルのリリースに先立つ1992年4月25日、尾崎豊は肺水腫により急逝しました。そのため、「汚れた絆」は、彼の生前に発表された最後のシングルとなりました。また、彼の死後、同レーベルから尾崎の未発表音源が新たにリリースされることはなく、ソニー・ミュージックレコーズから公式に発表された尾崎の初出音源は、本作とアルバム『放熱への証』のみとなっています。
本作のリリースに至る背景には、尾崎の波乱に満ちた晩年があります。1990年12月には、長年在籍した音楽事務所「ロード＆スカイ」を離れ、家族が経営に加わる個人事務所「アイソトープ」を設立。この設立には、『月刊カドカワ』編集長であった見城徹も深く関わっており、彼の協力は編集者の立場を超えるほどでした。事務所の代表取締役となった尾崎は、自らコンサートツアーのブッキングやバンドメンバーの選定を行うようになります。当時の彼は家庭が崩壊寸前であり、1991年1月には妻・繁美さんとの別居を開始。同時期には女優の斉藤由貴さんとの不倫も報じられました。
独立により、「ロード＆スカイ」在籍中に決定していた「BIRTH」ツアーは一旦白紙に戻されました。尾崎は再びイベンターと交渉を試みますが、度重なる公演の中止や延期で失われた信頼、そしてミュージシャン自身が経営を手掛ける不慣れさから、ツアー実現には時間を要しました。結果的に1991年5月20日の横浜アリーナ公演を皮切りに、「TOUR 1991 BIRTH」として34都市、全48公演が開催されました。しかし、このツアー期間中、尾崎はスタッフの些細な言動にも苛立ちを募らせることが増え、ツアー終了時には事務所スタッフが総入れ替えとなる事態に至ります。
ツアー中、尾崎は見城徹氏に全日程の同行を求めましたが、仕事で一度東京に戻った見城氏に対し、電話で帰京理由を問い詰めるなどしました。また、角川書店を退所するよう求めるなど、見城氏に対する様々な要求はエスカレートし、ついに見城氏は耐え切れなくなり、「お前とは二度と付き合わない」と告げ、尾崎との関係を断ち切ることを決めました。一方、プライベートでは、1991年10月に不倫相手との関係を清算し、再び繁美夫人と同居を開始しています。
ツアー終了後、辞任したスタッフに代わって全ての事務作業を引き受けていた尾崎の母親が、過労による心筋梗塞で61歳で死去しました。母親の死後、尾崎は真面目に事務所へ出勤するようになり、周囲への気遣いを見せるなど人間性に変化が現れたと言われています。しかし、ストレス発散のための飲酒は続き、肝機能の低下から嘔吐を繰り返すようになります。妻からは病院へ行くよう勧められましたが、病院嫌いのため受診しませんでした。
そして、アルバム『放熱への証』が完成したばかりの1992年4月25日未明、東京都足立区の民家の庭で泥酔状態で発見されます。妻と兄と共に自宅マンションに戻るも、突然危篤状態に陥り、日本医科大学の緊急治療室に搬送されましたが、同日午後0時6分に死亡が確認されました（享年27）。尾崎の突然の死は社会に大きな衝撃を与え、4月30日に護国寺で行われた追悼式には、3万7500人ものファンが詰めかけました。
「汚れた絆」は、アルバム『放熱への証』からのシングルカットとしてリリースが決定しました。シングル候補としては、本作の他に「闇の告白」も挙がっており、スタッフからの後押しもありましたが、尾崎自身は内容が暗い「闇の告白」よりも、「ニュー尾崎」をアピールするためにも「希望をストレートに歌った曲、明るい曲にしよう」と述べ、「汚れた絆」をシングルとして発表することを選んだと伝えられています。
本作は、オリコンチャートにおいて最高位7位を記録。チャートには7回登場し、累計13.7万枚の売り上げを記録しました。このシングルは、尾崎豊というアーティストがその生涯の最後に遺した、記憶されるべき作品の一つです。
このシングルは、前作「I LOVE YOU」から約1年2か月ぶりのリリースであり、同日には6枚目のオリジナルアルバム『放熱への証』（1992年）も発表されています。作詞、作曲、そしてプロデュースは尾崎豊自身が担当しました。
楽曲は、裏切りにより関係が途絶えてしまった親しい人物との過去を振り返る内容です。しかし、単に悲観的に終わるのではなく、過去に存在した輝きが失われることはない、という前向きなメッセージが込められています。音楽性においては、尾崎の初期作品で多くの編曲を手掛けた西本明が、アルバム『街路樹』（1988年）以来、約4年ぶりに参加。彼の参加は、この楽曲を含むアルバム『放熱への証』の3曲で見られ、原点回帰を思わせるサウンド作りを目指した構成となっています。ライターの落合昇平氏は、西本明こそが初期の尾崎サウンドのイメージを構築した人物であり、「汚れた絆」にもその影響が感じられると評しています。
ノンフィクション作家の吉岡忍氏は、この曲を「わかりやすい歌」と表現。5枚目のアルバム『誕生』（1990年）収録曲に見られるような猜疑心や被害者意識が薄く、「裏切り」という言葉が使われていながらも、尾崎自身の具体的なトラブルを連想させない、抽象化・一般化されたテーマとして描かれていると分析しています。さらに吉岡氏は、「汚れた絆」が、裏切りによる泥沼化した人間関係そのものよりも、なぜ裏切りに至ったかの背景を描写しており、個人の悪意ではなく、社会的役割や仕事上の都合によるやむを得ない離別を、淡々と歌い上げている楽曲だと述べています。
シングルのリリースに先立つ1992年4月25日、尾崎豊は肺水腫により急逝しました。そのため、「汚れた絆」は、彼の生前に発表された最後のシングルとなりました。また、彼の死後、同レーベルから尾崎の未発表音源が新たにリリースされることはなく、ソニー・ミュージックレコーズから公式に発表された尾崎の初出音源は、本作とアルバム『放熱への証』のみとなっています。
本作のリリースに至る背景には、尾崎の波乱に満ちた晩年があります。1990年12月には、長年在籍した音楽事務所「ロード＆スカイ」を離れ、家族が経営に加わる個人事務所「アイソトープ」を設立。この設立には、『月刊カドカワ』編集長であった見城徹も深く関わっており、彼の協力は編集者の立場を超えるほどでした。事務所の代表取締役となった尾崎は、自らコンサートツアーのブッキングやバンドメンバーの選定を行うようになります。当時の彼は家庭が崩壊寸前であり、1991年1月には妻・繁美さんとの別居を開始。同時期には女優の斉藤由貴さんとの不倫も報じられました。
独立により、「ロード＆スカイ」在籍中に決定していた「BIRTH」ツアーは一旦白紙に戻されました。尾崎は再びイベンターと交渉を試みますが、度重なる公演の中止や延期で失われた信頼、そしてミュージシャン自身が経営を手掛ける不慣れさから、ツアー実現には時間を要しました。結果的に1991年5月20日の横浜アリーナ公演を皮切りに、「TOUR 1991 BIRTH」として34都市、全48公演が開催されました。しかし、このツアー期間中、尾崎はスタッフの些細な言動にも苛立ちを募らせることが増え、ツアー終了時には事務所スタッフが総入れ替えとなる事態に至ります。
ツアー中、尾崎は見城徹氏に全日程の同行を求めましたが、仕事で一度東京に戻った見城氏に対し、電話で帰京理由を問い詰めるなどしました。また、角川書店を退所するよう求めるなど、見城氏に対する様々な要求はエスカレートし、ついに見城氏は耐え切れなくなり、「お前とは二度と付き合わない」と告げ、尾崎との関係を断ち切ることを決めました。一方、プライベートでは、1991年10月に不倫相手との関係を清算し、再び繁美夫人と同居を開始しています。
ツアー終了後、辞任したスタッフに代わって全ての事務作業を引き受けていた尾崎の母親が、過労による心筋梗塞で61歳で死去しました。母親の死後、尾崎は真面目に事務所へ出勤するようになり、周囲への気遣いを見せるなど人間性に変化が現れたと言われています。しかし、ストレス発散のための飲酒は続き、肝機能の低下から嘔吐を繰り返すようになります。妻からは病院へ行くよう勧められましたが、病院嫌いのため受診しませんでした。
そして、アルバム『放熱への証』が完成したばかりの1992年4月25日未明、東京都足立区の民家の庭で泥酔状態で発見されます。妻と兄と共に自宅マンションに戻るも、突然危篤状態に陥り、日本医科大学の緊急治療室に搬送されましたが、同日午後0時6分に死亡が確認されました（享年27）。尾崎の突然の死は社会に大きな衝撃を与え、4月30日に護国寺で行われた追悼式には、3万7500人ものファンが詰めかけました。
「汚れた絆」は、アルバム『放熱への証』からのシングルカットとしてリリースが決定しました。シングル候補としては、本作の他に「闇の告白」も挙がっており、スタッフからの後押しもありましたが、尾崎自身は内容が暗い「闇の告白」よりも、「ニュー尾崎」をアピールするためにも「希望をストレートに歌った曲、明るい曲にしよう」と述べ、「汚れた絆」をシングルとして発表することを選んだと伝えられています。
本作は、オリコンチャートにおいて最高位7位を記録。チャートには7回登場し、累計13.7万枚の売り上げを記録しました。このシングルは、尾崎豊というアーティストがその生涯の最後に遺した、記憶されるべき作品の一つです。
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