江山正美

江山 正美（えやま まさみ）は、1906年11月24日に山口県に生まれ、1978年6月20日にその生涯を閉じた日本の高名な造園家、造園研究者であり、農学博士号を持つ人物です。東京農業大学では名誉教授として、長年にわたり造園学科（現在の造園科学科）の学科長を務め、多くの後進育成に力を注ぎました。

東京帝国大学を卒業後、農学校での教職を経て、旧厚生省や戦災復興院、栃木県観光課長など多様な職務を経験した後に、東京農業大学の教授に就任しました。また、日本の造園学の発展に貢献し、日本造園学会の会長も歴任しました。旧厚生省勤務時代には、専門誌『林業技術』の編集委員としても活動しています。

江山氏の研究領域は広範にわたり、特に自然公園における「収容力（Carrying capacity）」の研究や、庭園構成論、プロポーション論、直角格子論などに独自の視点から取り組みました。自然公園の収容力については、「施設収容力」と「入れ込み収容力」という二つの概念に明確に区分し、施設収容力は「保護地域内にどの程度の施設を設置できるか」という限界を示し、それは地形と植生によって定められると考えました。

庭園構成論やプロポーション論においては、昭和初期に建築家・武田五一から直接意匠論を学び、アメリカの美術研究家ジェイ・ハムビッジが提唱した「ダイナミック・シンメトリー」のプロポーション理論を造園空間の分析に応用するという革新的な手法を導入しました。具体的には、京都の龍安寺庭園の石の配置構成を幾何学的・論理的に解明するなど、伝統的な庭園を科学的な視点から考察しました。江山氏のこうした先駆的な視点は、庭園構成論や造園設計論に新たなアプローチをもたらし、現代ランドスケープデザインの礎石の一つとなったと評価されています。

また、江山氏は「Landscape Architecture」を「近代造園学」と位置づけ、その成立と内容について深く考察しました。著書『近代造園学の成立とその内容』（造園雑誌、1968年）では、アメリカにおける国立公園思想を引用し、近代造園学は人間を中心とした環境計画学であり、その本質は「自然と人間の関係」を扱う学問であると論じました。特に、1872年に世界初の国立公園となったイエローストーンの出来事は、単なる土地利用の新しい形態ではなく、「造園空間に対する革命」であると捉え、自然そのものの価値を造園空間として発見した点に大きな意義を見出しました。これは、それまでの農業的・園芸的で人為的な管理空間としての造園とは一線を画すものでした。

さらに、彼は1910年に創刊された季刊誌『Landscape Architecture』の名誉会長チャールズ・エリオットが提唱した「Landscape Architecture」の定義にも触れ、それが芸術の一種であると同時に、「都会に住む勤労者が自然の美や平穏を享受し、慰楽、便益、健康増進を得るための技術」でもあることを強調しました。江山氏は、近代造園学が単なる芸術性だけでなく、科学性や合理性も兼ね備えるべきであり、さらに人間を「mechanical man」と「biological man」、「mental」な人間と「physical」な人間といった多様な側面を持つ複合体として捉えることが重要であると説きました。

その学術的な功績は高く評価され、1939年には庭園に関する研究で日本森林学会白沢賞を、1952年には現代の造園形態研究で日本造園学会賞を受賞しています。社会的な活動としては、こどもの国事業への参加も知られています。

江山氏の没後、彼の遺志と遺族からの寄付を基に、東京農業大学造園科学科では1978年から『江山賞』を設け、特に造園計画・施工分野の優秀な卒業論文を表彰し、後進の研究を奨励しています。

主な著書には、造園学の未来像を示唆した『スケープテクチュア-明日の造園学-』、『樹木と私たち』、そして日本の庭園文化を考察した『庭の文化史』などがあります。

彼の研究と教育への情熱は、今日の日本のランドスケープ分野に多大な影響を与えています。

主な著書

スケープテクチュア-明日の造園学- (鹿島出版会, 1977)
樹木と私たち (中央公論社)
造園学とは何か? 私たちが選んだ途の未来像
樹木と私たち (ともだち文庫 中央公論社, 1948)
* 庭の文化史 (株式会社文一総合出版, 1978)

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